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モンゴルでもわが国と同様、乳児、小学生、中学生にBCG接種を行い接種率は95%と報告されており、ツベルクリン反応検査により結核の感染状況を見ることが出来ないため、結核感染危険率の推定はされていない。しかし、上述のように、塗抹陽性肺結核罹患率はわが国の5.5倍であり、15〜34歳の結核が多く、小児の結核性髄膜炎の発生も98年の発生率が10万対1.9で決して少なくないことなどを考えると、モンゴルの結核感染危険率は1%を越えていると考えられる(塗抹陽性罹患率が10万対52.5と言う数字からもおよそ1%と推定される)。

 

3) 結核菌検査の実状

結核対策の最終的目標は、社会の結核感染をなくすことである。このためには、菌陽性の患者を発見し、これを確実に治さなければならない。このため、結核菌検査技術の向上は有効な結核対策実施の技術的な基礎となる。

図3に見るように、1993年までは結核の診断をもっぱらレントゲンに頼っていたため、新登録結核患者のうち塗抹陽性例は10%程度で、菌検査技術の評価は行われていなかった。

このため第1回全国セミナーから「菌検査中心の診断、菌所見中心の治療」に切り替えるべきことが繰り返し強調され、さらに実技を指導するため結核研究所の「細菌検査指導者コース」に次々と4名の技術者を受け入れ、また、結核研究所から指導者を派遣、JICAからは専門家の短期派遣を行うなど、わが国は強力に指導を行った。またさらに、モンゴルの結核患者での未治療耐性の頻度を明らかにするため結核研究所との共同研究を組織し、その解明にあたった。

これらの結果、モンゴルの喀疾塗抹検査の精度は図4に見るように、偽陽性、偽陰性ともに著明に少なくなり、このような評価を行う体制も確立した。NTCでは現在、培養および薬剤感受性試験の実施に向けて指導が進められている。

 

4) DOTSの普及状況

1994年に新しい結核対策への移行が開始された時から「入院治療より外来治療の重視」、「DOTS」の採用が決められ、その普及に努めている。WHOの結核年報(2000年版)でもモンゴルのDOTSカバレージは93.5%とされており、ほぼ完全に定着したと言ってよい。

今回われわれが訪問した2ヶ所のDistrict Health Centerでも「DOTS治療に習熟した看護婦」によってDOTSが行われていた。モンゴルでは患者へのインセンティブなしに患者は積極的に協力していた。予定の患者が来所しない場合には直ちに家庭訪問をすることになっているが、実際に訪問を必要とする患者は少ないということであった。また、化学予防もDOTで行っていた。

保健所で使っている「Treatment card」はWHOやIUATLDなどがすすめているカードを改善し、モンゴルで使い易くしてあるだけでなく、家族検診成績も記入するようになっている。また、カードや原簿の記載は非常に確実に行われており、職員の教育、訓練がよく行き届いていると考えられた。

1994年から今日までのDOTS実施患者数は表1に見るとおりである。

 

 

 

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