解析例
Helland-Hansenサイトのデータは、海流とライザーの動きに関する916組の記録から成る。ライザーについては、それぞれ34分間に4096回のサンプリングが行なわれている。この中から、解析用に357組のデータを抽出した。この解析と結果に関しては、Kaasenら(2000)に詳しい。ここでは、渦励振の解析と特定方法について述べた後で、1つの解析事例を示している。この事例は、典型的なロックイン現象で、ほぼ純粋な2次モードの渦励振となっている。
渦励振の大部分は海流に垂直な平面に発生する。したがって、ライザーの動きのX成分とY成分は、海流分布(ここでは紹介しない)から決まる流れ方向と流れの横断方向に変換して示す。前述の評価手法を使って、モード質量と変位量の評価を行なった。評価手法を適用する前に、すべての測定値にはシャープな帯域フィルターを使って遮断周波数を0.01Hzと0.16Hzにしてフィルタリングを行なう。フィルタリングの周波数領域は選択したモード(1次〜4次)の予測される周波数領域と一致する。
ライザーの6ヶ所の測定位置に関して、図8に流れの横断方向変位量の評価値の経時変化と振幅スペクトル(振動数スペクトルでないことに注意)を示す。図から分かるように、2次モードが支配的であるが、不規則な低周波の動きと、3次固有振動数の付近に不明瞭なエネルギーが見られる。低周波の動きはライザーの上端に近づくほど目立つことから、掘削プラットフォームの低速の位置変化によるものであることが分かる。
1〜4次および0次のモード質量の評価値を図9に示す。結果は、評価手法が(少なくともこの事例では)良好に機能していることを示している。2次モードは、明確に支配的モードとなっている。プラットフォームによる低周波の動きの大部分は、0次モードで捉えられている。また、他のモードの評価結果に、わずかに2次振動数の成分が見られる。この原因としては、解析に使った振動モード形が未知のパラメータを含む線形計算によるものであるために、完全に正確にならないことが考えられる。
モード質量の評価値と事前に計算されたモード形を使ってライザーの平方2乗平均プロファイルを計算した(図10)。この計算では、0次モードは渦励振ではないため、除外している。図10でも、明らかに2次モードが支配的である。
図10には、重力による外乱をまったく考慮しない場合の平方2乗平均プロファイルも表示した。プロファイル形状は大きく異なり、モデルに重力を含めることが重要であることが分かる。
結論
海洋掘削ライザーの渦励振による変位量を、フルスケールの加速度および回転速度の測定値から評価する手法を開発した。加速度計を使ってライザーの動きを測定する場合、ライザーの回転運動による重力の影響が信号に強く影響するという大きな問題がある。一方で、重力による「外乱」の存在は、低周波の動きの感知を可能にしている。