(2) 調査研究の内容
a. 概説
本調査研究では、まず最初に、海水試料に混合あるいは懸濁していて、生物に対して何らかの毒性や障害性を示す可能性がある微量な化学物質を海水中に高い濃度で存在する塩類の影響をできるだけ排除しながら効率良く捉える方法を模索した。微量な毒性化学物質だけを取り出すには、これらの物質の多くの成分が有機化合物であることを考慮して化学的な親和性の違いを利用することを試みた。すなわち、有機化合物をよく吸着する一方で、無機塩類は吸着しないような素材を詰めたカラムに微量な毒性化学物質を混合した海水試料を通して毒性成分を一旦カラムの中に捕捉する。続いて海水の成分、特に塩類を良く洗い流してから、適切な溶媒を用いてカラムの担体に吸着してカラム内に保持されている毒性成分を溶出する方法が最も適当であると考えられた。活性炭は今回対象とするような有機化合物を非常によく吸着することが知られているけれども、吸着した物質を再溶出することは困難であるとされている。そこで検討の結果、吸着するための素材としてC18という化合物を選んだ。吸着および溶出効果を調べるため、C18を詰めた固相カラムを用いて細胞に対して毒性を示すことが知られている化学物質を人為的に添加した人工海水を通した結果、毒性物質はC18に吸着してカラム内に残り、一方人工海水の成分のほとんどは素通りした。そして、C18に吸着した毒性物質はエタノールとエーテルという有機溶媒によって効率良く溶出することができた。
次に、採取された微量物質の毒性・障害性を調べるために、実験動物の代わりに培養細胞を被験試料とすることを試みた。従来の研究で、毒性を有する化学物質に対して感受性を示すことが知られている2種類の培養細胞株を含む3種類を対象とした。毒性あるいは障害性の判定方法としては毒性の強さを段階的に評価できると思われる2つの方法を考えた。