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河川水や池沼の水を試料とした場合多くの適用例が知られている有効な方法である。しかし、この方法論を淡水で一般的に行われているやり方のまま海水試料に適用することは、主として2つの理由で困難であったと考えられる。

1つは、高濃度の塩類を含む海水では、濃縮しようとして水分を減少させると大量の塩が析出し、微量な毒性成分のみを簡便に濃縮できないことである。もう1つは、安定した評価・判定結果を得るためには、マウスのように確立した実験動物が必要である。しかし、海洋動物には確立した実験動物がいないことである。

本研究事業では目標としている大掛かりな装置などを必要としない簡便な方法論を採用して上記の問題点を解決することを試みた。平成11年度の研究において、微量成分を濃縮するため、化学標品を添加した試験海水をゆっくりとした流速で主に有機化合物を吸着する性質を有する成分を充填した逆相カートリッジカラムに通すことにした。塩類はこのカラムを素通りしてしまうため、微量成分だけを一旦カートリッジカラム内にトラップすることに成功した。次に、このカラムを軽く洗浄した後、少量の適当な溶媒で溶出することによって高い倍率に濃縮された毒性成分試料を得ることができた。

得られた成分の生物に対する毒性や障害性の検定については、実験動物の代わりとして培養細胞を用いることにした。すでに永久継代系として確立している3種類の培養細胞株を供試材料に微量成分に対する各々の細胞株の感受性の違いも考慮しながら試験した結果、明確に反応を示す細胞株が得られ、しかも動物実験で知られているレベルの10倍〜20倍の高い感度で毒性を検出できた。前述の通り実験動物は、健康的に維持・管理するために飼育施設が必要であり、世話をするための人手や費用がかかる。一方、培養細胞は小さな培養器だけ用意すれば均質な細胞を安定して得ることができた。

 

 

 

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