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水圏に生息する生物を扱う立場としてより深く考慮しなければならないのは、環境中に放出されたこれらの化学物質はいずれは水界に、そして多くは海に到達する点である。特に沿岸域は海水中に放出された物質だけでなく、陸水を通じて流入する陸圏に放出された物質の影響も受ける可能性を考えなければならないであろう。このことは“沿岸域に生息する生物の健康に十分な配慮をした沿岸域の環境保全”の在り方を模索する本研究所の立場としては重大な問題である。そこで、最初に現状の調査を実施することを考えた。

現状の調査を進めるためには、対象を定め方法論を確立することが最も重要である。加えて、このような調査を継続的に行うには、ある程度の簡便さが要求される。特定の内分泌撹乱化学物質のように、生物に対する作用機序が明らかなものについては、そこに焦点を定めた分析的な検出法・評価法を採用すればよい。しかし、繰り返し述べているように問題となる物質はそれだけにとどまらない。従って、今回の研究では「海水に混合あるいは懸濁する物質を総合的に捉えること、そしてどの化学物質が影響するのか特定をすることは目的とせず、あくまでも海水試料の中に生物に対する影響物質が含まれているかどうかを明らかにできる評価法、できれば簡便で、かつ高感度に定量的な判定を行うことができる方法の確立」を目標とした。すなわち、本研究での「生物に対する影響」という視点は、内分泌撹乱化学物質ではなく、むしろ「沿岸生物の健康や生存を脅かす可能性のある物質」に重点が置かれている。そこで具体的な方法論の検討を行った結果、淡水における汚染判定などに従来から用いられている濃縮毒性試験法を海水試料に適用すること、毒性を判定する被験生物(実験動物)について培養細胞で代替する方法を試みることにした。

濃縮毒性試験法は、そのままの濃度では検出することが困難な微量成分の生物への影響を調べるために、毒性成分を含む試料からその成分だけを濃縮・抽出して、実験動物に投与する形で毒性や生物の対する様々な障害性を評価・判定する方法である。

 

 

 

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