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その結果、各々の海域により、あるいは時期によって、フランスガキの生体防御能力は大きく変動することを示すことができました。そして、その変動は水温に代表される環境要因の変化の影響を受けた結果として起こることも明らかにしました。すなわち、カキの生体防御能力の発現と環境要因の変化との間に関係があることを見い出すことができ、生体防御能力を指標として選択したことは誤りではなかったと思います。しかし、主題である環境評価法の確立については、健康度と生体防御能力の間との定式化に曖昧さが残りました。今後も、より有効性の高い評価法の確立を目指して研究を継続したいと考えております。

平成11年度と本12年度の2カ年は新たな課題に取り組みました。課題名は「培養細胞を用いた海水の濃縮毒性試験に関する調査研究」といいます。本課題の設定にあたっては、先に実施した研究を進める過程で考えさせられた事柄が発想の基になっております。それは、前の2カ年で行った研究では沿岸生物に対して影響を与えるものとして、自然海洋環境における主要な因子の変化だけを考えているけれども、それで十分なのかが明らかになっているのか、その他に生物に影響を与えるような物質が沿岸水に混合しているのではないか、それを知った上で生物の状態を考えるべきなのではないかということでした。

近年、環境ホルモンとも呼ばれる内分泌撹乱化学物質に代表される様々な化学物質による環境汚染の問題が大きく取り上げられているのはよく御存知のことと思います。特に内分泌撹乱化学物質は動物のホルモンと同様の作用を示し、動物が有する本来の内分泌環境を乱すため、生殖や行動に異常を生じさせると言われています。生殖に対する影響は生物個体の最も大きな役割、すなわち健全な子孫を残すこと、に対して強い障害となりかねません。こうした事態の進行を看過すれば種の存続に対して影響をおよぼす可能性も考えられます。

 

 

 

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