日本財団 図書館


103-1.gif

図1 岩手県水産技術センターの定期沿岸観測点:側線は北から黒埼ライン、トドが埼ライン、尾埼ライン、椿島ラインと呼ばれる。これらの測点で、1963年から月1回の割合で海洋観測が実施されているが、冬季には各ラインの最も沖合の測点での観測は行われないことが多い。論文中で特に議論される6つの観測点の位置も示してある。

 

この論文では、1971年から1995の25年間の観測資料を用いて、この海域の海況の季節変化を調べる。観測は月をまたがって実施されることもあるが、表1のような期間分けを行えば、この最近のデータについては、年12回の期間にそれぞれ含ませることが出来、ここでは表1の、I〜XIIの期間を便宜上、1〜12月と呼ぶことにする。なお、岩手水産技術センターの観測は、時には500m水深に及ぶ場合もあるが、通常は300m水深までであるから、ここでの議論も300m以浅に限ることにする。

 

2. 水型の季節変化

25年間の資料を月別に分けて平均し、観測された水型を全てTSダイアグラム上にプロットしたのが、図2である。データは、標準層への内挿、密度逆転チェックを行う前の生の観測値を使用している。この図には、Hanawa and Mitsudera(1987)に従って、黒潮水(K)・津軽暖流水(T)・親潮(0)・沿岸親潮(C)・表層水(S)・より深層の水(D)のそれぞれの水型が通常存在する領域を示してある。Hanawa and Mitsudera(1987)は主として300mまでの観測値を用いてこの図を作成し、比較的表層の水を対象にしており、深層の水については細かい分類をしていない。例えば、7月のTSダイアグラムで、データ点が密に集まっている部分に注目して、左やや下向きにある楔状部分の下側エンベロープは通常の解釈では「親潮水塊」を指している(例えば、楊・永田、1990;Fujimura and Nagata、1992参照)。楔状の先端部が塩分極小を指し、楔状上の部分で黒潮領域(K)の中まで直線上に延びる部分は、黒潮と親潮の混合水と解釈されるのが普通である。塩分34psuあたりから、上ないし左上に分岐している部分が津軽暖流水の特性を示すものである。この分岐点から下の津軽暖流水領域(T)内の水については、Hanawa and Mitsudera(1987)も指摘しているが、黒潮と親潮の混合水であるのか、津軽暖流水であるのかを判定するのには特別の考察が必要とされよう。

図2の1月から4月にかけては、観測された水型はほぼ右上がりの直線状に分布しており、特に2〜3月においては、水型の分散も小さい。この右上がりの直線は、この時期、O〜Tの領域で等密度線にほぼ平行しているため、密度の鉛直勾配は比較的小さい。後に述べるように水温・塩分の水平分布には若干の構造が現れるが、このことを反映して密度の水平分布は1〜4月にかけてのっぺりした形になる。このTSダイアグラムからだけでは沿岸親潮水とは断定できないが、2月から5月までの間、Cの領域に入る低温・低塩分の水が現れる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION