しかし、この当時の気象状況は、図9aに示すとおり、高気圧に覆われて風も弱く本来大きな波浪は起こり得ない状況であった。気象庁の波浪解析図(図9b)でも波高はせいぜい3m程度である。ところが、この付近の海底地形(図9c及びd)を見ると、浸水被害のあった涌元の海岸付近で水深が浅くなっている部分がある。このため、沖合いから来た波は屈折によりエネルギーが集積して、海岸付近で大きな波浪(証言では7mにも及んだという)に変形したものと思われる。
このような特異な変形は、図9dの海底地形を見てはじめて分かるように、局所的な地形に影響されている。このため、図9cのように粗い海底地形からはその傾向をはっきり捉えられず、普段は気にならない地点も多い。日本の海岸には、潜在的にそういう地域は随所にあると思われる。安心していたところに高波が押し寄せて思わぬ災害となることがあるので、注意が必要である。波の屈折は、詳細な海底地形情報があれば、ある程度予測できるので、まえもって海底地形の状況をよく調べておくことが防災上では重要である。