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しかし、この当時の気象状況は、図9aに示すとおり、高気圧に覆われて風も弱く本来大きな波浪は起こり得ない状況であった。気象庁の波浪解析図(図9b)でも波高はせいぜい3m程度である。ところが、この付近の海底地形(図9c及びd)を見ると、浸水被害のあった涌元の海岸付近で水深が浅くなっている部分がある。このため、沖合いから来た波は屈折によりエネルギーが集積して、海岸付近で大きな波浪(証言では7mにも及んだという)に変形したものと思われる。

このような特異な変形は、図9dの海底地形を見てはじめて分かるように、局所的な地形に影響されている。このため、図9cのように粗い海底地形からはその傾向をはっきり捉えられず、普段は気にならない地点も多い。日本の海岸には、潜在的にそういう地域は随所にあると思われる。安心していたところに高波が押し寄せて思わぬ災害となることがあるので、注意が必要である。波の屈折は、詳細な海底地形情報があれば、ある程度予測できるので、まえもって海底地形の状況をよく調べておくことが防災上では重要である。

 

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図9 1990年10月24日の北海道における波浪災害の事例(北海道上磯郡知内町・函館市)

a:地上天気図(1999年10月24日09時)、b:外洋波浪実況図(1999年10月24日09時)、c:広域の海底地形図(津軽海峡)、d:知内町付近の海底地形図と屈折の波浪の状況

 

高潮・波浪の相互作用と海底地形

これまでは、高潮と波浪を外部重力波として統一的に理解できることを念頭に置きながらも、それぞれの現象について個別に見てきた。しかし本当のところ、両者は密接に関係して相互作用もしており、複雑なメカニズムの中で海底地形の影響を受けている。この相互作用については、まだ十分に分かっていないことも多い。

 

 

 

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