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以下では、この高潮と波浪の相互作用の形態を概観しながら、海底地形との関わりについて簡単に見ていくことにする。

高潮と波浪の相互作用としては、大きく分けて海面水位に関与するものと流れや運動量に関与するものとに分けられる。高潮によって起きる水位変化は、浅水波としての波浪の存在域とその域内での群速度などを変化させる。高潮の水位変化は2m程度としても、水深の浅い沿岸部においては、この変化は決して無視できる量ではない。一方、波浪が砕ける(砕波するという)時には、海面水位が上昇する現象(ウェーブセットアップという)が起きることが分かっている。この現象は、波浪の持つ運動量の関係で海面を抑えつけていたものが、砕波することによって解放されると共に、波浪の運動量を受け取って水面が上昇する現象である。なお、砕波する直前は、波はその存在限界ぎりぎりに発達しており、この発達した波浪によって、海面水位は最も低くなっているのが普通である。

運動的な相互作用としては、波浪の鉛直運動が効果的に海水に運動量を拡散して伝え、海水の運動である吹送流の強化を引き起こす一方、流れのある場では、流れとの相互作用によって波浪が強まったり弱まったりするなど様々な相互作用があることが分かっている。また、波浪によって海岸付近に流れ(海浜流)が形成されることも分かっている。この流れのうち、沖合いに向かう離岸流は、せいぜい数kmの小規模な流れであるが、遊泳者が沖合いに流されてしまう事故をしばしば起こしている。この現象も、波浪が砕ける地点(海岸付近では水深に依存している)などが関与しているのである。これらの現象を把握するためには、現象を十分に表現できるような詳細で信頼できる海底地形情報が必要となる。

最後に、実際の沿岸で高潮に対する波浪の影響を示す。図10aは、今年(2000年)7月の台風第3号による八丈島の高潮の状況を示したものである。八丈島の八重根観測所における高潮は偏差が約2.5mと高いものであった。しかし、数値モデルによる計算では、偏差はほとんど計算されない。その理由として、八重根観測所付近の地形が、海水を集めやすいことも一因とは考えられる。しかし、海図によるとこの地点の水深が特に浅いとか、湾が奥まっているなどの形状をしているわけではなく、それだけでこのように大きな誤差を説明できない。一般に、島しょ部や半島の先端では高波が直撃しやすので、この誤差には、波浪の影響大であると考えられている。この時の波浪を推算し、八重根観測所における波高と観測値と予測の誤差を示したものが図10bである。誤差が増大するのと波高の高まりがよく対応している。なお、波高の時系列にはピークが二つ見られるが、これは台風の通過に伴って波向きが変化しているためであり、あとの波浪は高潮の偏差にあまり寄与していない模様である。

 

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図10 2000年の台風第3号による八丈島の高潮

a:八重根観測所の観測値と数値計算による偏差、b:観測値と計算値との誤差と同地点における推算波高

 

 

 

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