日本財団 図書館


八代海の水深を39mにした場合は、八代海北部の高まりはほとんど現れない。吹き寄せによる高潮は、水深の逆数に比例することを見てきた。平均水深を仮定すると八代海北部では、水深が5倍以上も深くなることから、高潮は大きくならない。それでは、八代海北部の代表的な水深である7mにした場合はどうか。この場合、一見すると北部の偏差はよく一致しているように見えるが、偏差はやはり小さくなっている。水深を7mにした場合、吹き寄せ効果は大きくなる一方、バランスは八代海全体での釣り合いとなる。八代海南部の偏差は負になっている。八代海のようにほとんど閉鎖海域のようなところでは、海水が外海から十分補給されないので、この負偏差は補償されない。ところで、吹き寄せのバランス(海面の傾きと風との応力)は、八代海南部の負偏差のために早い段階でつりあうために、北部の高まりはあまり大きくならない。その意味では、八代海は、高潮の発生に比較的「好都合な」海底地形になっていることになる。このように、直接海岸に面した海底地形や水深だけでなく、その沖合いからの海底地形も、高潮に強い影響を与えるのである。

 

027-1.gif

図6 水深を変化させた場合の八代海の高潮(1999年9月24日6時)

a:水深を全て39m(平均水深)にした場合(その他は図5と同じ)、

b:水深を全て7mにした場合(その他は図5と同じ)。

 

海底地形と波浪の関係

波浪は、風によって起こされる海面付近の変動である。外洋を遠く伝播してくるうねりもこれに含まれる。大抵の人は、海岸線で砕ける波を見ているであろうから、比較的なじみも深いものと思う。波浪は、短い波であるからその影響は海面付近に限られており、水深が100mを越えてしまうとほとんど海底地形の影響を受けない。しかしながら、沿岸部に近づいたりして水深が数10mから数m程度と浅くなると、海底地形の影響を受けるようになる。少し複雑な関係式であるが、表2に海の波(重力波)の主な関係式をまとめておく。位相速度は、波形(山と谷)の進行する速度、群速度は波のエネルギーの進む速度であるが、ここでは深く立ち入らない。

中央の式が、線形理論から導かれる関係式であり、左側が水深を大きくした場合の近似式、右側が水深を浅くした場合の近似式である。普通の外洋域においては、波浪の関係式は左の式で表されるが、水深が浅くなると右の関係式で表現されるようになる。この右側の式は、実は高潮や津波を表現する式そのものである。すなわち、それぞれの現象を記述する関係式は、本来理論的に導かれた中央の式で統一的に表現され、実用的にその近似式が用いられているに過ぎない。実用的といっても、深水波の近似式は、水深が波長の半分より大きい場合に、浅水波の近似式は、水深が波長の25分の1より浅い場合には、ほとんど真の値と等しくなる。

 

表2 波浪の関係式

027-2.gif

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION