図9 北海道南西沖地震による津波の浸水高さの数値計算結果(折れ線)、と集落別津波浸水高さの実測値(白丸)
白丸は実測された、集落部別津波の浸水高さである(加藤ら、1994)。計算値と実測値はおおむねよい一致を示している。しかし北海道本土側の津波浸水高の計算値のうえには、白丸で示した集落別津波高さ分布には現れなかった、2つの顕著なピークが現れている。最大のピークは瀬棚町と島牧村の境界であって、ちょうど茂津多岬の所に当たっている。2番目のピークは北檜山町と熊石町の境界をなす尾花岬付近に相当している。
この2個のピークに対応する浸水高さの局地的に大きな場所は、白丸の示す実測分布の上には対応するものが現れてはいない。
じつはこの2つの岬付近は、断崖が海岸線に迫った急斜面の絶壁状の岬海岸であって、集落はこの付近には存在せず、また自動車道路もまたこの両岬付近には通っていなかった。したがって、津波発生後1ヶ月以内に緊急に行われた自動車による現地調査ではこれら岬付近の津波浸水高の調査がなされなかったのである。
われわれは、茂津多岬付近の津波浸水高さのピークが現実にも大きな津波浸水高さとして現れていたかどうかを実地検証するため、瀬棚町須築(すっき)集落からその北方約2kmにある茂津多岬に向かって、津波の浸水高さ調査を行った(都司ら、1994)。岩石の散乱する海岸線に沿って約1.4km岬に向かって進行した。しかしその先の調査は、厳しい地形条件のため危険と判断して断念した。また尾花岬付近では、日中昼(にっちゅうびる)トンネルの北側口工事場付近、およびここから南下して尾花岬方向に500mほど接近して、そこで危険のため進行を断念した。
このようにして得られた2つの岬付近の津波浸水高さの調査結果は図10のようである。茂津多岬の南方1km付近の散乱岩石に覆い尽くされた海岸で、津波によって海水が14.7mの高さまで浸水していたことが確認された。また、尾花岬付近では、日中昼トンネル北口付近で10.2m、その300mほど南で10.3mの津波浸水高さが確認された。尾花岬の南側からは、大成町太田集落から天狗山トンネルの南側入り口付近まで徒歩で接近することができ、約11mの津波浸水高があることが確認された。