3.10.1 知的システムを信号処理に適応した新たな追尾処理について
1) 追尾の知的処理化による(既存の追尾処理からの)性能向上についての検討
我が国における船舶交通の安全を確保するための法律として、海上衝突防止法、海上交通安全法及び港則法の三法がある。
海上衝突防止法は国際的に統一された基本的な海上交通ルールを定めており、海上交通安全法は船舶交通のふくそうする海域における船舶の交通について、特別の交通ルールを制定している。港則法は政令で定められた港において、港内における船舶交通の安全と整とんを図るためのルールを定めている。
例えば、港則法第14条3項では「船舶は、航路内において、他の船舶と行き会うときは、右側を航行しなければならない。」としている。
また、港則法第17条では「船舶は、港内においては、防波堤、ふとうその他の工作物の突端又は停泊船舶を右げんにみて航行するときは、できるだけこれに近寄り、左げんに見て航行するときは、できるだけこれに遠ざかって航行しなければならない。」としている。
これら一般的には大容量となる交通ルールを加味した知的なアルゴリズムによって追尾すると、追尾性能が如何に向上するかについて図3.10.2に示す事例で検証する。この事例は、海域に右側通行のルールがある場合を仮定し、比較的低速のID付与北航船が、比較的高速のID付与無し南航船と行き会い、南航船の前を横切った際に、北航船に付与されていたIDが南航船に乗り移った実際に発生したケースを参考とした。
この事例では、ID船が横切ったとき、相手船の左側(前)を航行した(仮定したルールとは反対の行動をとった)ことになる。そして、船舶IDは相手船に付いて、すなわち、乗り移って、その後の追尾が行われたことになる。ID船のエコーと相手船のエコーが各々の船舶を追尾するために使用している追尾ゲート内に次の位置の候補としてどちらもあったことになる。(図3.10.1参照)
このように近接していると、複数の船舶のエコーが互いに相手側の追尾ゲート内に入り、乗り移ってしまうことになる。また、接近している場合、多重反射による偽像が発生することも多く、それに乗り移ってロストになることもある。