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一般にルールは海域によって異なるが、事例では右側通行のルールを1つ組み込んだ知的処理を行うと、右側に相手船があるので、船舶IDは相手船に乗り移ってしまうことを示している。すなわち、簡単な知的処理を行うと、間違いを防げなかったケースとなる。なお、相手船の右側(後ろ)を横切った場合には理論上及び今までの追尾解析結果などから多分乗り移りにならなかったと思われる。(乗り移りの状況などは図3.10.2〜4参照)

例えば、この海域で各船舶は右側通行のルールを100%とる(ルールの適用度100%)とする知的処理の追尾をおこなった場合は、前記のとおり100%乗り移りとなる。また、各船舶は右側通行のルールを50%とる(ルールの適用度50%)とした場合には、前記の事例は50%乗り移りとなる。いずれにしろ、知的処理をする場合は予め設定した条件(例えばルールの適用度の割合)で乗り移りとなる。

なお、ルールの適用度を0%とすると0%乗り移り(乗り移らない)となるが、この追尾性能は予めルールを設定しない(すなわち、ルールなどを無視し、未来に起こることは原則的には未知とした)既存の知的処理によらない追尾処理の性能と多分同じである。

 

結論としては、予め設定した条件で追尾可能となるが、条件外では既存の追尾と同じ結果となると言えるであろう。例えば非ノイマン型コンピュータのプログラムで知的処理を行った結果は既存のノイマン型コンピュータのプログラムで追尾処理を行った結果と処理条件などが双方で同じであれば、性能は向上しないであろう。

前記の乗り移り事例の対策として、管制官が追尾状況を見ていて間違い(IDの乗り移り)が分かると云うことは、豊富な経験に基づく判断処理が必要なのかもしれない。この事例では右側通行の知識ルール1件のみで検討したが、この知識ルールを50件とか100件とかにしたとしても結果は同じとなる可能性を含んでいる。もし判断処理に必要な知識ルールが、約10行/1ルールのプログラムとデータとして、1万件組み込むとすれば、約10万行のプログラムとデータとなり、既存のプログラムとデータの約3倍のソフトウェア規模になる。この知識獲得と処理の作り込みに少なくとも3年以上かかるであろう。一般にAI(人工知能)システムには変更が付きものである。ルールベースは変更がしやすいというようなことは今やだれも信じていない。最も困難なのは知識獲得である。AI技術は専門家が少ないため専門家の単価が高く、投資額が大きくなる傾向も問題である。大規模な問題に対しての知識の質の確保にも困難が伴う。だれも理解できないシステムが残る可能性が高く、保守不能を避けるために開発要員がそのまま保守要員として残ってしまうことが多い。AIシステムの保守費用は一般のシステムに比べて通常高い。

なお、レーダー局の位置と処理海域などとの地理的条件と処理海域における気象・海象の状況によって(例えば集中豪雨時)、高度な判断処理を行ったとしても、追尾成功しない場合は発生する。

 

 

 

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