実態調査(2)のレビューデータによるロストと乗り移りの推定原因分析の結果は表3.4.1.4の通りであるが、この結果から海域ごとの地域的な特性については次の点が指摘できる。
1) 「船舶同士の陰によるロスト」、「船舶のエコー割れによるロスト」の原因については海域による変化が無く、どの海域においても同じようにこの原因によるロストが起こっているもので、地域的な特性が特にないことが推定できる。
2) 「多重反射偽像によるロスト」は本牧海域に多く発生している。特に表中の29件のうちの16件はNo.4の中ノ瀬区域に於いて発生しており、本牧沖の停泊船により発生する本牧レーダーの偽像信号に紛れ込んでのロストの発生が大きい事を示している。
3) 「降雨・波浪のクラッタに紛れ込んでロスト」する事例件数は全て観音海域のNo.5の浦賀水道区域で発生している。降雨は浦安海域で17日夜1時頃に一時的に少し観測されたが、継続するものではなく、区域的な広がりも無かったので、「降雨クラッタによるロスト」の影響は無かった。したがって、レーダーに近い範囲のNo.5区域のシークラッタによるロストのみが顕著に発生しているといえる。特に風の強かった10月18日には多発していることから、強風によるシークラッタの影響が関係していると考えられる。
4) 「接近した他船への乗り移りによるロスト」の件数は殆どUSライン以南のNo.6の海域で発生している。これは全て入航船にパイロットが乗船する時に発生しているものである。これ以外の海域で発生した件数は非常に少ない。
5) レビューデータの分析によるロストと乗り移りの件数は全部で156件で、発生件数は約2.2件/時間となり、表3.4.1.2の同時に行われた管制官運用卓での実態調査で得られた追尾のロスト件数3件/6時間に比べて多いが、これはレビューデータの調査では実際の船舶の追尾処理が行われている全ての船のデータが含まれているのに対し、実態調査(2)の取り扱いでは対象となっていない曳(押)船などの調査報告は含まれていないためである。