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3.2 既存の追尾方式における追尾性能

3.2.1 追尾率について

追尾率を一般的に定義した文献は見当たらない。ここで数学の確率を参考に追尾率を定義する。追尾では追尾率=追尾数/処理数となる。例えば、追尾数は追尾成功の物標数(すなわち、追尾継続して表示している物標数)で、処理数は追尾中の物標数である。既存VTSシステムの追尾では6秒ごとに最大300隻までの物標を追尾し表示可能となっているため、通常は追尾率(最大1の確率)=追尾数(最大300)/処理数(最大300)での運用となっている。但し、必ずしも追尾成功しないことは長年にわたるシステム運用の経験からも明らかで、追尾成功しない数(追尾の失敗数)Nを基に追尾率=追尾数(最大300-N)/処理数(最大300)の統計結果が得られると実際のアンテナ1回転ごとの追尾率を確認することができるであろう。この方式によって、追尾を一律に評価できる。因みに、この代表的なNの値に対応する、アンテナ1回転ごとの追尾率(表中表示形式は確率及びパーセンテージ、以降では基本的には小数点以下3桁までの%表示とする)を表3.2.1に示す。一定の回数の試行を伴う問題では、試行の結果が成功又は失敗のいずれかであり、試行が独立したものである実験を通して成功の確率が一定である場合に二項分布になる。

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参考文献:牧野都治、初等情報処理講座2 統計の知識、森北出版株式会社、1970

船舶の追尾ではアンテナ回転毎に船舶エコーを入力できる確率を0.5と仮定し、連続して7回当該エコー入力が無かった時に追尾不能(消失)と判断し、ロストとする。その確率を(成功数χ=7、試行回数η=7、成功率ρ=0.5を代入して)計算することができる。

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ロストの場合には算出したエコーの位置、大きさ、速力、針路、及び追尾の状態を含むトラッキングデータの外部への送出を停止してその追尾を終了する。6秒間に25隻追尾していた場合に消失(ロスト)隻数は25×0.00781=0.19525となり、約30(=6/0.19525)秒間に約1隻ロストすることになる。また、追尾率は1-0.00781=0.99219となる。この追尾率は連続して7回エコー入力が有った場合に追尾できる確率(位置確率・条件発生確率・継続確率・成功確率)に相当する。例えば追尾率が0.99998の時に追尾の失敗数は1時間に3件、追尾率が0.99995の時に追尾の失敗数は1時間に9件、追尾で失敗した(ロストと乗り移りとなる)場合(注1)があることになるが、この追尾で失敗した場合に管制運用官が1時間に3件〜9件の識別(ID)符号を再付与すべき運用操作を考慮すると、追尾率(=1-(ロスト率+乗り移り率))はこの程度でも十分であるとはいえない。

 

(注1) 現行のVTSシステムでは、監視対象船舶への識別(ID)符号の付与は手動となっており、識別(ID)符号が付与された船舶の追尾で消失(ロスト)となった場合にはロストマーク(?)がそのロストした位置に表示される。このロストマークを消去することも手動となっている。船舶の追尾でその他の船舶を追尾する場合に乗り移りとなる。

 

 

 

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