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1. 海上運送書類の手続簡易化

 

1.1 貿易手続簡易化の背景

 

1.1.1 現行の典型的貿易取引形態

19世紀までは、主として貿易港の商館を拠点として営まれていた店頭取引形態の貿易取引は、郵便事業、海運業、保険業、銀行等の近代的経営が出現して、通信制度、運送・保険制度、金融制度等が確立すると、次第に隔地取引形態へ移行しはじめ、貿易経営形態にも大きな変化が生じました。この取引形態では、通信によって商談・契約締結をしますが、また各種の書類によって契約が履行されます。さらに、貿易取引条件にも変化が生じて、それまでの「本船渡条件」(Free on Board; FOB)1からその変種が派生し、19世紀後半に、「運賃保険料込条件」(Cost, Insurance and Freight; CIF)2が生成・発展して、今世紀に入ってから―特に、1920年代後半に―現行の貿易取引メカニズムが完成されるに至ったのです。

図1は、輸出国の売主A社と輸入国の買主B社の間にCIF条件による売買契約が締結され、荷為替信用状ベースで代金決済が行われる一番簡単な貿易取引を示すものです。CIF契約では、売主は船荷証券を中心とする一組の船積書類を提供する義務を負い、買主は船積書類が契約に一致するときは、これを受領し、これと引換えに代金を支払う義務を負います。図1の真ん中に示すように、まず「I.商談・契約の成立」の段階で、売主と買主の間で、このような物品売買契約を締結します。次ぎは、「II.契約の履行」の段階で、これは、「II-1.物品引渡」と「II-2.代金支払」に分かれます。「III.紛争解決・商事仲裁等」の段階は、当事者間に紛争が生じた場合の解決手続ですが、ここでは省略します。

図1では、信用状ベーズによる決済条件を例示しているので、1]は、買主(発行依頼人)が発行銀行に信用状(L/C)発行の依頼を行い、発行銀行から通知銀行を経て、売主がL/Cを接受するまでの流れを示します。このL/Cの条件を充足する船積書類を整える必要があります。2]売主(荷送人)は、運送契約を結び、物品の輸出通関手続を済ませてから、約定期間内に物品の船積みを行い、運賃を支払い船荷証券を取得します。貨物は船積港から外航船によって指定仕向港に向けて海上運送されます。

 

1 FOB条件は、物品が指定船積港において買主が手配した本船に物品を船積みし、これと引き換えに代金の支払いを受けます。物品が本船の手摺りを通過したとき、売主が引渡の義務を果たしたことになり、その時点から物品に関する一切の費用および滅失または損傷の危険を負担しなければならないことを意味します。

2 CIF条件は、物品が船積港において本船の手摺りを通過したとき、売主が引渡の義務を果たしたことを意味します。売主は、指定仕向港まで海上運送の手配を行い、物品を船積みして運賃を支払い、船荷証券を取得し、海上保険契約を結び保険料を支払って保険証券を取得し、船荷証券、保険証券および商業送り状を一緒に買主に提供して、これと引換えに代金の支払いを受けます。

 

 

 

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