業界利益に配慮した行政姿勢を修正し、環境税や温暖化ガス排出権売買導入などの実現に向けた環境計画を明確に示した行政に今後舵が切られると思われる。大型低速舶用ディーゼル機関搭載の外航商船は、熱効率(燃料消費率:SFC)二炭酸ガス排出では優等生であるが、粗悪C重油を使用せざるをえないためNOxに関連するホットスポット発生は不可避で、また設計時の燃焼室解析は未だ開発途上の技術で予測と実測は相当異なる。2010年頃に予想されるさらなる規制強化では、新たな低減措置が必要になる。ISME TOKYO 2000で発表されたバルト海に就航しているフェリー2隻に搭載されているHAM(Humid Air Motor)、ヴァルチラ中速機関が今後販売する舶用DEに標準採用する直接水噴射(DWI)などが妥当な低減手段である。燃料性状の多様性に対応するためにはコモンレール方式の登場が不可欠であろう。欧州ではユーロモートが陸上の交通機関の原動機を含めた環境技術で活発に発言を行っている。三菱開発の水燃料層状噴射、SCR(アンモニア、尿素)や水エマルジョン燃料は本命ではないと考える。
2.3 コモンレール方式(カム軸レス)の動き
自動車市場ではコモンレール方式が実用化されている。
舶用DEでは実証・実用化の段階にある。燃料噴射系のキーコンポーネントである作動がms台の超寿命要求の高速電磁弁がNABCOで開発中であり実証試験段階に入りつつある。
2.4 省エネプラント
大出力機関を搭載している大型コンテナ船、VLCCでも排ガスT/Gシステムの採用が最近激減しており、原油価格が高騰して、省エネが要求されている時代に一見逆行している。設備費用が高く投下資本回収が長期化していること、トラブル回避に高い機関管理レベルが要求されること、外国人機関士配乗が一般化していること、排ガスエコノマイザー蒸発管損傷時には相当の復旧費用がかかること、シンプルな機関プラントにして船舶管理を容易にしたい背景がある。地球温暖化問題が今後深刻化すれば再び採用も考慮すべき事項である。排ガスエコノマイザーの外部汚れ問題もAPモラーが標準採用している鉄系炭化水素を燃料に微量添加したシステムでは蒸発部はクリーンに保たれ、過給機のタービン側汚れもクリーンにキープされている。日本海を航行している新日本海フェリー(PC機関)やMOL欧州航路コンテナ船、出光タンカーVLCC、MESが納入したマカオの発電プラント(K 80 MC & K 90 MC)に採用されて良好なパフォーマンスが実証されトラブル回避に寄与している。
省エネ効果が大きい2重反転プロペラー(CRP)がVLCCで2隻搭載され、採用時の検討が十分なされたこともあり問題なく運航されている。高馬力化に伴うプロペラー直径の製造上の制約や港湾の許容水深が顕在化すれば再度検討すべき事項である。
2.5 機関室の配置標準化
新来島どっく喜多常務が同社開発のモジュール工法を「造船研究」最近号で紹介されている。IHI呉が大型コンテナ船やVLCCで過去に本格的に取り組んだことがあるが、港湾問題で全長を縮める設計になったVLCCの機関室配置が全面的にリアレンジされ、配置設計の標準が崩れてしまった。三菱神戸建造・台湾のエバーグリーンのコンテナ船では船主要求で機器配置の標準化が採用されている。同型船効果が実現できて、運航船社の乗組員も機器配置や配管に短期間で習熟でき、ミスハンドリングもなくなり非常に良い設計と考える。今後大量の退職者が発生するヤードでは是非配置標準化に取り組んで欲しい。
2.6 舶用ガスタービン
燃料費が全体費用に占める比率が小さい大型客船“Millennium”に、航空機用ガスタービン(大出力)転用型が採用された。SMGT技術組合が開発中のプロジェクトは出力が2,500kw級で、A重油使用可能、熱効率も高く、NOx排出量は1g/kWh以下と、機関室の労働環境を改善し乗組員少数化が可能であり、燃料費増を招航船の環境規制が強化された場合、東京湾、伊勢湾、大阪湾内等で運航する一部船種には採用されるのではなかろうか?量産化による価格低下を図ると普及する可能性があると思う。