1.13 過去のディーゼル機関の主要トラブル
造船学会誌2000年9月号に投稿した小生の論文のp10〜14にトラブル事例の一部を記述しているので本稿では割愛するので興味のある方は造船学会誌を読んでほしい。
NK船級船を中心に星野次郎博士(元NK常務理事)がまとめた大著「機関損傷解析と安全対策」には1990年代前半までの主要な各種トラブルの原因と対策が記載され大変参考になる。鋼船規則改正の歴史を辿れば、船主の各種ノウハウをベースに改正されてきた歴史がある事を思い起こしていただきたい。
1.14 軸馬力計及びエンジンアナライザーの活用
海上試運転時(MFO使用)に軸馬力計測を行うとポンプラック値より算出した計測値と比較して低い値が出て陸上運転時と比較すると、燃費率が相当悪化することが1980年代半ばより報告されて、その妥当性について関係者で検討がなされてきた。
ISME TOKYO 2000でIHIの中島課長が論文を執筆しているので、詳細は論文を参照していただきたい。結論的には約5%台の悪化が起きることは妥当である。従って燃料消費量を算出する時は採算に影響するので海運関係者は加味する必要がある。
エンジンアナライザー開発ではYSKシステムの2000年6月に逝去された故山口薫氏が舶用機関関係者に貢献されたその業績に改めて感謝の意を表したい。彼が集積した機関データは貴重なものがある。後継者の薩本氏には新方式の開発を含めて事業継承をお願いする。
2. 燃料、環境、省エネ、機関室設計及び代替原動機など
2.1 MFO性状把握
MFOが原因で起こる燃焼室周りのトラブルが跡を絶たない。低質燃料油の品質規格(ISO 8178)の基準の見直しが要請される所以である。
石油業界に依存していても燃料規格の是正ができないことが認識された。舶用工大型機関部会に燃料油研究プロジェクトチームが結成されてA・B船社が共同研究に参加して、燃焼実験や解析を関係業界(機関メーカーと主要な船主)で自主的に行い、複雑な燃料油の燃焼過程を九州大学高崎研究室の燃焼解析装置を使い解析する手法に取り組んでいる。問題のあるMFOの入手、有意な低質油判定方法など有効な改善策を策定し提言する困難な課題が残されている。
初年度は分析期間の一般性状分析からトラブルの確率が高い補油を統計分析してみたが、相関係数が高い因子は見出されなかった。Al、Siといった従来から云われてきている成分であれば、燃料油処理システムの強化を行うことにより相当程度改善される。また要求SPECを満足していなければ、バンカーサプライヤーにデバンカー等の措置により、トラブルをミニマイズしている現状がある。DNVPSなどへ油分析を依頼し、絶対的な判定基準とはいえないが一般性状分析結果を迅速に把握する体制が不可欠である。
2.2 環境対応
温室効果ガスの98年度国内総排出量は13億3600万トンで、90年度比5.0%増である。
IMO MARPOL条約のNOx規制批准が遅々としているが、いずれ批准・成立するであろう。環境関係計測では現在のライセンサーのシミュレーションレベルでは就航後のNOx予測、SPM計測は燃料依存性があるため精度がでないため、費用も多大になる実測しか方法がない。MDO使用の陸上運転時以外では実用的な計測手法はないに等しい。
国内では石原都政になりディーゼル車のDEF規制強化や、環境庁・建設省の道路行政の改善を迫る尼崎公害訴訟や名古屋南部公害訴訟では原告勝訴の判決が相次いで出され環境・道路行政は転換点にさしかかっている。コンテナターミナル周辺も今後強化が規制されよう。旧運輸省が注力してきたモーダルシフトも関係トラック業界が真剣に取り上げる時期にきている。2000年11月のCOP6では欧州と、日米加の利害調整が不調に終わったが、次回会合で京都会議COP3のアクションプランが決定される必要がある。