日本ではMAN 58/64型機関は長距離フェリー、大型客船、VLCC(タービン船より主機換装船)に採用されたが、様々な事故を経験し、高い事故発生率で評価を落とし28台搭載に留まった。あるフェリーでは船体振動過大で着火順序を変えたクランク軸に換装したのは不名誉な記録である。客船(機関を弾性支持している)では入念なFMEAを機関新造時実施したが、就航後もFO、LOのフレキシプルチューブ破損、過給機の溶接型架台のクラックなど重大な事故を起こした。ライセンシーによるコストダウンを図るためのコンポーネント製造方法変更も事故の1つの要因であった。
ドイツから直輸入した高速機関が高速フェリーに搭載され、就航間もない97年下半期にクランク軸が折損した事故はLO系配管設計(特にフィルターが差圧過大になった時のバイパス回路設計が日本の常識と反対であった)が原因と言われている。たまたま予備エンジンを1台持っていたから、不稼動は最小限に抑えられた。
新機種を採用する時はメンテナンス方式・整備量・予備品の範囲も含めて入念なチェックが必要である。重大事故時に問題となる予備品の入手・手配が容易である量産機種の採用が万事につけベターであることは、低速DEの選定以上に考慮すべき事項である。
1.10 主機採用仕様書の提示
船主が新造船を計画する場合、以前に同一仕様の船種を発注した造船所であれば、ヤードとの仕様ネゴでは仕様の相違点だけを記載した簡略な仕様書でももめることはないが、複数のヤードにテンダーする場合は、明確な仕様書が必要である。不具合個所や仕様は都度見直し、直近の技術動向を取り入れておけば、いつでもオファーできる。例えば船種の異なる客船・フェリー建造時では機種選定の基準や、絶対守るべき仕様・艤装上の注意を記載しておけば、ヤードとの打ち合わせ、機関メーカーの誤解によるチェック漏れもミニマイズできる。A船社では主要な主機関メーカー数社と各5〜6回打ち合わせを行い、“主機採用条件書”を95年春に作成した。合わせて詳細な機関部注文仕様書を作成した。同種の仕様書を主機関について作成している船主は割合多い。同業他社の動向を定期的に調べておくことも重要である。韓国ヤード向けにオファーする機会も多いので英文条件書を作成しておく。過去に発注した不具合を是正するため仕様書の見直しを行ってトラブルフリーの機関を製造するように要求している事をヤード関係者は特に認識してほしい。主要船主と詳しく意見交換をしたことが過去あったが、1社で発生した特異なトラブルは他社船でも起きていることが多い。“主機採用条件書”の適用情況を確認することは、船主・ヤード・機関メーカー間の信頼関係を維持するのに重要である。
メジャーな機関損傷事故は自社船でなくても関心を持っており、必要な時はライセンサーに確認する場合もある。
1.11 造船所機関部基本設計・主機選定担当者
各ディーゼル主機の型式による相違点や、過去の主要なトラブル事例の経緯・原因、懸案事項に関心を持ち、新機種採用時やリピート注文時にも十分な配慮をして欲しい。保証期間終了後に船主よりクレームされた懸案事項が残っておれば継続して機関メーカーとファローアップして、シリーズ建造船に生かすことが船社の信頼感を増す。機関メーカーはヤード担当者に常日頃接触して状況説明するアフターサービス活動が欠かせない。主要オペレーターや船舶管理会社は造船所の対応力を注視・観察していることを認識してもらいたい。
1.12 主機整備基準書の作成
各船に搭載されている舶用DEは改造履歴があり、少しずつ異なることが一般的である。メーカーの取扱説明書ではカバーできない改造経緯・項目を整理して、ディーゼル主機関の整備基準書を作成することは種々利便性がある。編集作業に相当の時間を要するが、直接運航管理している本船・船舶管理会社SIのみならず、主機関メーカーと技術上の問題を議論するときも大変役に立つ。目標MTBO(平均整備時間間隔)を記載し、実績を反映した整備の運用の適正化を図ることは技術管理と厳しいコスト管理を両立させるメンテナンス業務では重要である。