負荷急変を避けることも重要である。三菱重工が開発したALLというシリンダ注油調整装置や、DUが開発したメカトロタイミング方式もこのコンセプトが入っている。
1.9 舶用中速機関の状況
客先が艦艇・保安庁パトロール船、長距離フェリー、船腹需給の調整により建造受注の低迷が続いている内航船、客船等である中速主機関の分野は、フェリーに多数搭載され長期の信頼性改善努力が評価されているSEMT PC(最新モデルはPC4-2B、トラブル発生は極めて少ない)・PA機関は最近の市場シェアは約8割という(ISME TOKYO 2000)。過去海事局が新機種開発を助成した阪神内燃機や新潟鉄工所は業績不振で元気がない。
中速機関の主要な需要先・ターゲットは欧米のメーカーを見るまでもなく、採算のよいIPP向け発電プラントである。中速機関メーカーはメーカー数が多く世界的に再編過程にある。熱効率を重視する立場から、機関口径を問わずミラーサイクルを標準的に採用するメーカーが出てきているが、過給機入口の排ガス温度特性が全体的に上り、FOの燃焼特性によっては高負荷域では許容温度を超えることもあり相当リスクを伴う設計である。
耐熱温度の高いガスタービンのような翼材料を過給機タービン翼に新規に採用すれば、製造コストの問題があるが、許容温度も上り、安心して採用できると思う。
国内の設備投資が回復し、アジア経済の復調により電力需要が増加しつつあるので、設計に特徴のあるADD機関(1吸排気弁)や販売実績が250台を超えるKU機関はブランドを確立して一層の需要確保に努力してほしいものである。三菱重工が開発に成功した新型ガスエンジンMACH-30G(3,800〜5,750kW級)なども小型ガスタービンに対抗する機種になることを期待している。
過去高い頻度で経験した中速機関のトラブル事例を列挙すると
1]排気温度の過高による出力制限、2]排気弁弁座部のブローバイ(材料硬度が高温時に低下するために起きた)、3]排気弁の高温腐食(材料選定の不適)、4]ピストンクラウンの割損(冷却油側が高温になりスラッジが発生し、熱伝達が阻害され、マイクロクラックが発生する)、5]Al製ピストンスカートのスカフィング焼損(負荷上昇時の熱膨張に対する変形予測不適切、形状及び材料選定・加工不適切)、6]LO消費過多(スカート形状不適、ガスブローバイによりピストンリングが降伏して固着・ガスシール性が失われ、LOコストが過大になり運航経済性が著しく損なわれる)、7]折損したピストンリングの破片が過給機タービン翼を直撃し、過給機を全損させる、8]フレームの剛性不足、9]主軸受メタル損傷、10]連接棒の折損による脚出し事故、11]LOサービスラインのフィルター容量不足・エレメントの強度不足やLO清浄機の容量不足により、LO中の金属成分がクランク軸受を過大磨耗させ、クランクピンと軸受が金属接触して、クランクピンにクラックが入る。クランクピンをアンダーサイズに旋削する重大損傷が発生したことが時々起きている。12]ゴム製弾性継手が、動的捩り変形過大によりゴム内部が発熱し、ゴムの加硫温度を超えクリープ破断する事故が発生している(ライフタイムは最低8年以上持つように型番選定が重要で、動的捩り剛性の選定を過少に取ると短時間で破損する。また周辺の強制冷却を考えるべきである)。早期に過大変形をモニターするために継手の変形量を常時モニターする装置が日本で開発されている。予備エレメントの手配上重要である。コストは高いが信頼性を重視するならガイスリンガー継手を採用すべきであろう。
昭和50年代にMAN型、SEMT PC型中速機関を多く搭載したPCCは2サイクル機関搭載の代替船に世代交代すると、不稼動を招く重大事故が減り、部品代やLO費用(システム油消費)が大幅に低下し、機関整備に追われていた船内労働も激減した。過給機のローター、タービンノズル、空気冷却器のエレメント(Tubenest)の予備を持つだけでも不稼動期間は相当短縮することができる。