第三はインタラクティブシステムという点で、これはこの規格の対象を表現している。インタラクティブという言葉は対話的と訳されることもあるが、機器やシステムが人間からの指示に応じて処理を行い、その結果を表示するようなもののことをいう。その具体的な対象としては、先に述べたように、コンピュータを応用したさまざまな製品が含まれる。
この規格では、人間中心設計の証としてユーザビリティという目標を達成することを求めているが、そのユーザビリティという概念は、有効さ(effectiveness)と効率(efficiency)、満足度(satisfaction)という三つの下位概念から構成される。ちなみに、有効さとは、ユーザーが、指定された目標を達成する上での正確さと完全さを意味し、効率とは、ユーザーが、目標を達成する際に正確さと完全さに費やした資源を意味し、満足度とは、不快さのないこと、及び製品使用に対しての肯定的な態度を意味している。
こうした目標を達成するために、この規格では、次の四つの点に留意しながら設計活動を推進することを要求している。すなわち、ユーザーの積極的な参加ということとユーザー及び仕事の要求の明快な理解がまず最初に設定されている。これは、設計者が頭の中で考えたユーザ像だけでものづくりをしてしまうことの危険性を指摘しているともいえる。実際に、ユーザが生活し、仕事をしている環境の中でユーザの行動を観察し、ユーザの声を聞くことの重要性をいっているものである。二番目は、ユーザーと技術に対する適切な機能配分ということであり、ユーザの適応力に頼りすぎて、ユーザに対する配慮を欠いたような設計をすることは避けるべきである、ということである。三番目は、設計による解決の繰返しということで、設計し試作したものは必ず評価を行い、問題点を明確にし、その問題点を改善した後、さらに評価を行って問題が解決したことを確認することを求めている。四番目は、多様な職種にもとづいた設計ということで、デザインチームには、エンジニア、デザイナ、ユーザ分析やユーザビリティの評価担当者を入れることを求めている。特に日本の製造業において強調すべきは、ユーザの分析やユーザビリティの評価を担当する人々が少ないこと、その結果として、彼らとの共同作業の機会が極端にすくないことである。ISO 13407では、こうした四点に留意しながら開発を行ってゆくことを求めている。
また、この規格は、プロセス規格であるが、基本的に次の四つのプロセスを経由することを求めている。すなわち、利用の状況の把握と明示ユーザーと組織の要求事項の明示、設計による解決案の作成、要求事項に対する設計の評価である。利用の状況の把握と明示は、ユーザの特性や作業の目標などを理解し、どのような製品にすべきかに関する基礎情報を得ることである。要求事項の明示は、一種の要求仕様を作成することになるが、一般の機器システム開発における要求仕様とは異なり、あくまでもユーザに関係した要求事項をまとめたものをさしている。当然であるが、その要求事項は、前段の、利用の状況の把握に基づいていなければならない。設計による解決案というのは、前段の要求仕様にもとづいて試作品やプロトタイプなどを作成することで、それによってコンセプトを具体化することができる。最後の要求事項に対する設計の評価というのは、いわゆるユーザビリティ評価のことであり、二番目のプロセスの要求事項を評価の基準とし、三番目のプロセスで作成された試作品やプロトタイプを評価することになる。
これらのプロセスは反復的に実行されることになり、段階的に具体性を帯びてくることになる。その意味では、プロトタイピングサイクルの考え方をベースにしていると見なしてもよい。特に、設計と評価の間では反復が頻繁に発生するべきであり、そうした反復によって製品の完成度を上げてゆくことができるのである。
製品開発プロセスがこの規格に適合しているかどうかについては、認証活動が行われることになるが、現時点ではTÜV Rheinlandが認証を開始したところである。