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情報機器が普及し、同時にさまざまな機器の情報化が進展することにより、情報化特有の問題点があきらかになってきた。それは、情報機器は、ソフトウェア次第でさまざまな機能を持つことが出来るし、そのソフトウェアの作り方によって、使いやすくも使いにくくもなる、ということである。

このような問題は1980年代の半ばにイギリスとアメリカでほぼ同時に注目された。イギリスでは、ブライアン・シャッケル(Shackel,B.)がITE(Information Technology Ergonomics)を提唱した。これは、従来は人体計測や疲労、標識の視認性などの、主に人間の身体特性や生理特性に関連した問題を扱ってきた人間工学を、もっと情報技術(IT)よりの問題を取り扱うように拡張すべきだ、という主張であった。欧州では、以来、彼の指導にもとづいて、ESPRITなどの研究プロジェクトが発足し、基礎的な研究の積み重ねを行ってきた。一方、アメリカでは、ドナルド・ノーマン(Norman, D.A.)がユーザ中心設計(User Centered Design)という考え方を提唱した。これは、従来は、企業のエンジニアが中心になってものづくりが行われていたものを、そのものを利用するユーザを中心に据えて実行していくべきだ、という考え方である。これは、参加型デザインと似ているが、彼の主張は、必ずしもユーザを設計作業に参加させるところにあるのではなく、ユーザの視点にたって、あるいはその立場にたってものづくりをすることを主張しているわけである。

いずれにしろ、15年ほど前の欧米でのこうした動きが背景となって、ISO 13407という規格の制定につながってきた。この規格は1995年12月にワーキングドラフト(WD)が提出され、その3年少々後の1999年6月に国際規格(IS)として制定され、その時間の短さが話題になったが、背景にこうした動きがあることを考えれば、この時間の短さはむしろ自然なものであったともいえるだろう。

この規格は、ISOのTC159という人間工学に関する技術委員会で審議されてきた。母体となったのは、既に国際規格として成立していたISO 9241-11という規格であり、それが規定した概念を用いながら、如何にして実践していくか、という方法論を規定したものである。この規格のタイトルはHuman-centred design processes for interactive systemsとなっており、2000年11月に発効した翻訳JISの規格では「インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス」(JIS Z-8530)と訳されている。このタイトルには、この規格の基本となる三つの概念が含まれている。

まず第一は、人間中心ということであり、これについてはすでに触れたとおりである。第二は設計プロセスということであり、これは、この規格がプロセス規格であることを語っている。ユーザビリティについてはいろいろな分析方法や評価方法が知られているが、なかなかその絶対的水準を安定した数値として表現することは難しい。そこで、この規格では、ユーザビリティの水準そのものを扱うのではなく、その製品を開発してきた開発プロセスを評価するプロセス規格となっている。プロセスそのものの評価には時間がかかるので、実際には、そのプロセスにおいて作成された文書を対象にして、規格に適合しているかどうかを審査するようになっている。

 

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図6 ISO 13407(1999年6月に制定された。対応するJIS Z-8530は2000年11月に発行した)

 

 

 

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