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前述のように、機能や性能がよくなっても、また値段が安くなっても、ユーザビリティ上の問題が解決していなければ、ユーザはその製品を十分に利用することができないのである。

世の中には、売り上げ第一主義という考え方があるが、この立場に立つと、機能や性能やデザインの魅力によって客を引きつけ、彼らにその製品を購入させようとする。購入されてしまえば、ある意味では客との関係は完了してしまい、担当者は新たな顧客を求めてゆくことになる。このような売り上げ第一主義の立場にたっている限り、ユーザビリティは問題にされることはないだろう。一般に、ユーザが店頭で製品を見るとき、ユーザは機能、性能、デザイン、価格といった情報をもとに購入の検討を行う。通常の状況では、彼らにはその信頼性や安全性、そしてユーザビリティを確認するための時間的余裕はないし、その機会もない。したがって、ユーザビリティは商品選択の際の基準になっていない。そのことを悪く考えると、商品選択の基準になっていないことについて資金や人員を投入する必要はなかろう、ということになる。実際、こうした考え方にもとづいて作り出されている製品はかなり多数あるといわざるを得ない。

後述するように、現在、世界のものづくりの動きは「人間中心設計(Human-centered Design)」ないし「ユーザビリティ」の方向に向かっている。この時期において、ユーザビリティを重視しないものづくりを続けてゆくことは、近い将来における市場からの撤退を意味することになる、ということができる。このような意味で、特にユーザビリティに関して問題点を残したままの製品を世に出してゆくことは、製造業としては致命的な問題になるであろう。

 

2. ユーザビリティという概念

ユーザビリティという概念を特に定義せずに使ってきたので、ここでその概念をきちんと考えておくことにしたい。ユーザビリティという言葉は、語源的にはuse + ableであって、使うことが出来るかどうかに関わるものといえる。その意味では、製品にとっての必要条件であって、十分条件ではなく、いいかえれば、それを満足したからといって、売り上げが爆発的に上昇する、というような性格のものではない。

この意味でのユーザビリティは、ユーティリティ(utility)という概念と対比的に使われる。ユーティリティは製品のポジティブな側面であり、機能や性能のことと考えてよい。前述のように、これまでの製造業では、主にユーティリティの面に力を入れてきた傾向がある。機能と性能は、ユーザが製品の購入を考えるときの重要な要件だったからである。このユーティリティと対比的に使われるユーザビリティは、製晶のノン・ネガティブな側面ということができる。つまり、使いにくいとか分かりにくいという問題点をなくすことによって、製品をuse + ableにしていくことを意味しているのである。現在、ユーザビリティ工学(usability engineering)といわれる研究・実践分野があるが、これは、主にユーザビリティ上の問題点を的確に抽出し、その対策を考え、製品を完全にしていくような取り組みを意味している。その意味では、後述のユーザ工学は、ユーザビリテイ工学の上位概念と位置づけられる。

こうした意味合いでユーザビリティという言葉を使った場合には、ユーティリティとユーザビリティとは相互補完的な関係にあるともいえ、その上位概念としてジェイコブ・ニールセン(Nielsen, J.)は有用性(ユースフルネス、usefulness)という言葉を使っている。ユースフルネスはuse + fulという意味だから、十分にそれを使いこなすことが出来ることを意味しており、一応適切な定義とみなすことができよう。

状況を若干複雑にしているのは、実はこのユースフルネスと同じ意味でユーザビリティという言葉を使っている場合があることである。その代表が、ユーザビリティに関する国際規格であるISO 13407である。現在は、こちらの意味でのユーザビリティが一般化してしまっており、ユースフルネスという言葉はあまり使われていない。

 

 

 

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