この問題を克服するために、外部電源の電流を変化させた場合の電位の測定値も利用することが考えられる。さらに「金属の種類が銅であればαjはこの範囲であるだろう」などといった金属の分極特性について、あらかじめ大まかに推定することはできるので、このような暖昧な情報を活用することが考えられる。このような先験情報はファジー理論を用いることで利用することが可能となる。
ファジー理論では、これらの曖昧な情報をメンバシップ関数μi(i=1〜n)と呼ばれる関数を用いて数値化する。ここで、nは情報の個数である。つぎに、この関数を用いて推定パラメータ(ここでは、αj)についてFuzzy集合Fiを定義する。これにより、パラメータは以下のような推論によって決定される。
1. C=II∩F1∩F2…∩Fnとする。
2. Cの重心を解とする。
4.2 解析例
図6に示した6個の電極と6個のセンサーを持つ全長140m高さ11mの船舶に対して数値シミュレーンョンが行われている。6)図には船体の片側しか表示されていないが、反対側にも対称の位置に電極およびセンサーが3個ずつ配置されている。まず、境界要素法により順解析を行ない(その結果を図7に示す)、センサー位置に置ける電位を3桁に丸めることで逆解析に用いるための測定値を模擬している。
ペイント防食された船体の分極特性を
φ=-α1sinh-1(α2i)+α3 (13)
と表し、前節に示した方法によりパラメータαj(j=1、2、3)の推定をしている。用いた先験情報はメンバシップ関数の形で図8に示されている。得られた電位分布の推定結果を図9に示す。正解値(図7)と良く一致しているのがわかる。
5. カソード防食の最適化
外部電源方式のカソード防食においては、電極の位置や印加する電流の大きさを適切に決定する必要があるが、従来は経験則に頼って決定することが多かったために、しばしば防食に過不足を生ずることがあった。
本節では、構造物の金属全域で防食を達成でき、しかも必要電力を最小にするような、最適な電極位置および印加電流値を境界要素法を用いて決定する方法について考える。犠牲陽極によるカソード防食についてもほぼ同様な方法で最適化できるが、ここでは紙幅の都合により割愛する。
5.1 基磯式
溶液の占める領域Ω内部にΩに比べて充分小さいm個の電極を配置する場合を考える。2)