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原子力は全体に占めるシェアはまだ小さく、社会的受け入れの問題など将来の展望がはっきりしない側面もあるが、先進国を中心に急速に導入されてきたことが分かる。

このようにしてエネルギーは現代生活に不可欠のものとなった。エネルギー需要、少なくとも商業的エネルギーの需要は、多くの国で、経済活動の高度成長期には経済活動を上回る速度で増大してきた。そして今、エネルギーシステムは新たな課題に直面している。

1970年代の石油危機は、化石燃料が有限資源であることを確認させた。また、今日の地球温暖化問題は、資源枯渇よりも地球環境容量の制約が先に顕在化する可能性が高いことを警告している。エネルギーシステムは、地球の有限性の効果が現れるほどまでに巨大化したのである。一方、エネルギーの供給技術には、規模の経済の限界など技術進歩に停滞が見えてきており、石油危機後の集中的な研究開発努力にも拘らず近年大きな進展はみられない。また、エネルギー需要については、途上国を中心に引き続き需要の量的増大が見込まれるとともに、先進国においては、特に都市部においてエネルギーの質に対する要求が増大してきている。高度情報化社会を支えるエネルギーには高い供給信頼性が要求され、シェアを増しつつある業務・家庭用エネルギー需要は負荷の時間変化が激しく複雑で、電力ピーク需要対策など新たな問題を発生させる。

今後のエネルギーシステムは、供給の安定性、経済性、環境適合性という従来からの基本要請に応えると同時に、長期的なエネルギー供給源として非化石エネルギーの活用を目指し、あらゆる段階での省エネルギーを追求しなければならない。また、エネルギー需要を所与のものとしてシステムを構成するのでなく、需要と供給、双方における対策を総合的に組み合わせて最適な対応が行えるよう、需要面により重点をおいたエネルギーシステムの新たな統合が求められている。

動力革命以来、われわれは地球の貴重な遺産である化石燃料を大量に消費してきた。既に述べたように、今日われわれが消費しているエネルギーの総量は、石油に換算して年間約90億トンに達する(薪や動物の糞、農業廃棄物などの非商業エネルギーも勘定すればさらに石油換算約10億トンが加わる)。この90億トンのうち約40%は石油自身であり、30%弱が石炭、20%強が天然ガスで、これら化石燃料で商業エネルギーの約9割が賄われている。このような大量の消費により、化石燃料が形成された何億年という時問に比べれば一瞬ともいえる短期間のうちに、地球温暖化という副作用を残してその遺産を食い尽くそうとしている。エネルギーシステムにもう一度革命を起こす必要があるようだ。

 

4. 地球規模の限界に近づくエネルギー利用

動力革命を契機として始まったエネルギー消費の急速な拡大は、いまや地球生態系の自律的機能を阻害する規模にまで到達している。二酸化炭素の温室効果による地球温暖化はその最初の兆候である。

そもそも地球上の生命現象の根源は、太陽エネルギーの入射と光合成によるその固定である。生態学では光合成による太陽エネルギーの固定量を純一次生産と呼ぶ。この太陽エネルギー入射量や純一次生産と比較することで、地球生態系に対する人類の諸活動の影響の大きさを計量することができる。

太陽が地球に降り注ぐエネルギー量は約17万兆ワットであり、反射や大気による吸収を経てそのうちの約8万6千兆ワットが地表で吸収される。地表で吸収される太陽エネルギーのうち、僅かに550兆ワットだけが光合成に利用されており、光合成の効率や植物の呼吸による自家消費を差し引いた約80兆ワットが正味固定される太陽エネルギー、つまり純一次生産量となっている。純一次生産量は、地表面での太陽エネルギー吸収量の約0.1%、地球に送られてくる全太陽光入射量に対しては0.05%である。

現在の世界のエネルギー消費量は、既に述べたように、石油換算で年間約90億トン、パワーでは約12兆ワットで、太陽エネルギー入射量と比較すると1万分の1以下の小さいものだが、純一次生産量と比較すると既に10分の1を越える規模に達している。

 

 

 

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