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純一次生産として固定された太陽エネルギー(生物体として固定されるのでこれをバイオマスと呼ぶ)を人類はどのように利用しているのであろうか。人類が直接利用しているバイオマス量は、エネルギー用の約1.5兆ワット(このほとんどは薪や動物の糞など非商業エネルギーとして利用されており、上に述べた世界のエネルギー消費量には含まれていない)をはじめとして、食糧や原材料分を含めて約3兆ワットである。これに、家畜などによる食糧の迂回生産や根や茎など利用されずに廃棄される部分も含めた間接利用バイオマス量では、既に25兆ワット、純一次生産量の約30%に達している。

これらの事実は、エネルギー消費や食糧生産などにおける我々の文明の活動量が、地球に生きるすべての生命体を維持している全エネルギー量に近づきつつあることを示している。人口や経済活動は数十年で倍増する勢いで伸びており、このまま放置すれば、百年程度のうちに、人間活動によって地球の純一次生産をすべて利用し尽くす計算になる。これは地球生態系にとって大きな挑戦である。

人類のエネルギー消費量は、太陽エネルギー入射量に比べればまだ無視できる規模であり、エネルギー消費の廃熱によって地球全体が温まる発熱状態にはまだ遠い。いま問題となっている地球温暖化は、化石燃料から放出される二酸化炭素によって地球の冷却機能が損なわれて地球が温まるという別の問題である。しかし、この地球温暖化問題は、長い目でみれば人類にとって好運をもたらすものかも知れない。もしいまこの問題に気がつかなければ、我々は人類の文明が地球規模の有限性に直面していることに気づかなかったかも知れないからだ。その意味では、地球温暖化問題は、地球の危機を予兆するカナリヤの役目をはたしている。エネルギー問題を考えることは、人類の文明を考え直すことでもある。

 

5. エネルギーシステムの新たな展開

エネルギー技術史から分かるように、エネルギーシステムの大きな変革は、供給技術の進歩と利用システムの革新との相互作用によって生じている。エネルギー利用システムの革新は、単に生産力を向上させただけでなく、新たな需要を引き起こし人類の生活形態を大きく変貌させた点により重要な意義がある。20世紀におけるエネルギー需要の急速な増大は、前世紀までに発明されたエネルギーシステムがようやく開花したものである。つまり、20世紀のエネルギーシステムの2大分野は、中央発電所を中核とするネットワークで構成される電力システムと自動車を中心とする移動する分散エネルギーシステムであり、これらシステムの基礎となる発明は19世紀末に行われている。20世紀になって新しく登場したエネルギー源である原子力は、核兵器と原子力潜水艦を除いて、本質的に新たなエネルギー利用法はまだ実現していない。

エネルギー技術の将来を展望するには、個別の技術の展開とともに、エネルギーシステムの全体構成が今後どのように変化するかを予測することも重要な視点である。世界的なエネルギー産業の規制緩和の潮流の中で、電気事業は現在大きな制度転換の最中であり、これは今後の電力技術の発展方向にも大きな影響をもたらす。電力ネットワークは、従来から、種々の一次エネルギー資源を電力という均質で使い易くクリーンな二次エネルギーに変換することによって、エネルギーシステムの中心に位置してきたが、今後はコージェネレーションの例に見られるように電力だけでなく、熱やガスまでも供給するより大きな統合エネルギーシステムとして展開していくと期待される。

この脈絡で注目されるのが、電気自動車、特に燃料電池自動車である。蓄電池によって駆動される電気自動車は電力需要を増加させるだけであるが、燃料電池自動車はクリーンな分散電源としての側面を持つ。太陽電池や風力発電とともに燃料電池はクリーンな分散電源として期待されてきた。

 

 

 

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