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表1 計測・分析・試験の性能に関する用語の意味と日本語訳の現状

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*JIS Z 8103-1990「計測用語」による

**JIS Z 8402-1991「分析・試験の許容差通則」による(改訂中)

 

従来の誤差論では、母平均が真の値からどれだけ離れているかが「かたより」として、また測定値の母平均からの差が「ばらつき」として評価される。前者は系統誤差、後者は一般に偶然誤差とみなされる。計量計測の分野でも用語の整理が重要であり、用語の正しい定義と使い方が求められる。しかし、残念ながら精度(精確さ)や精密さ、正確さ(真度)に関しては分野によって異なる意味が適用されている場合があり、今後の統一に向けての努力が期待される。そこで、表1に重要な関連用語をまとめて示した。

さて、誤差の成分を系統成分と偶然成分に分ける考え方は一般的である。また、これらを合成して総合誤差として扱い、最大限どこまでの誤差を考えるべきかを問題視することができる。

さて、系統成分と偶然成分は本質的には異なる性質を持つが、総合的な大きさを推定する際には何らかの形で合成する必要がある。かたよりの大きさ(+と-の両方が考えられる)を横軸、ばらつきの大きさ(+側のみ)を縦軸にとれば、作られた直角三角形でこれらを議論することができる。系統成分と偶然成分の合成の仕方には、代数和方式(a+b)と二乗和の平方根方式([a2+b2]1/2)があり、前者の方が安全側に立った見方である。ISOから発行された国際文書(後述)では後者のみの考え方を採用している。

なお、誤差と精度は、どちらも同じようなことを意味する場合が多く、誤差はネガティブな表現、精度はポジティブな表現と割り切ることもできる。不確かさはネガティブな表現(certaintyと言わずにuncertaintyを採用した経緯は?)ともいえるが、それを小さくしようとすることがこれからの計量計測分野の大きな関心事となる。

 

4. 測定結果の総合的評価と判断の必要性

従来の誤差の考え方では「真の値」が存在し求められることを前提としており、前述のように用語の使い方も分野及び各国によってまちまちであったために、誤差の概念を共有化することの難しさと実際の数値の扱い方にも統一性が保たれていなかった。そこで、メートル条約のもとでの各国の標準を比べあう国際比較においても結果のまとめ方に支障を生ずるということが露呈した。そこで、メートル条約の国際度量衡委員会(CIPM)では、1981年に測定結果の信頼性の評価方法の統一に向けて活動を開始し、アンケート調査や合同作業を実施して問題点の提起を行った。その後CIPMやISOなどが中心となり、図5に示すような経緯を経て1993年にISOから7つの国際機関の合同編集による「不確かさ表現」のガイドを発刊した(1995年に改訂版を発行)。主要国の標準研究所ではこの文書の概念を積極的に取り入れて、校正証明書の記述にも適用している。また、我が国でもこのガイドの翻訳版が出版されており、計量標準のトレーサビリティ制度、品質システムの審査、試験所認定の技能試験などに導入されている。現在では、さらなる改訂と事例を多数集めるための作業が新たに設置されたJCGM(Joint Committee for Guides in Metrology)で行われている。これらの文書は当初、物理系や機械系の分野で広がっていき、化学や臨床医学など幅広い分野でも積極的に採用されている。

 

 

 

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