このガイドにおける不確かさの概念は、すべての測定値の変動要因は「ばらつき」であるとし、誤差を前提とせずに、不確かさ(uncertainty)を、「測定の結果に付随した、合理的に測定値に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」と定義している。そして、不確かさの推定には、統計的方法によって推定できるもの(Aタイプと呼ぶ)と、それ以外の方法によって推定するもの(Bタイプ)とに分けている。極めて情緒のない分け方であるが、不確かさの多くの内容を客観的・統計的に求めようとしている。Aタイプの場合には当然ながら標準偏差(標準不確かさと呼ぶ)を指標とすることができるが、Bタイプの場合でも何らかの方法で標準偏差に相当するものを求めることを要請している。
そして、最終的にはAタイプ、Bタイプに関わりなくすべての標準不確かさを、二乗和の平方根方式で合成して合成標準不確かさを求めるという概念を貫いている。(代数和方式は導入されていない。)さらに、ここで求めた合成標準不確かさはあくまでも標準偏差(1シグマ)に相当するので、然るべき信頼率を付与するためには包含係数(coverage factor)kを導入して2シグマや3シグマに相当する信頼率での値を導出できるようにしている。
図6は上記の概念を整理して示したものであるが、従来からのばらつき(偶然成分)とかたより(系統成分)と新しい概念のAタイプ及びBタイプを必ずしも対応させる必要はなく、相対的なばらつきの原因となる4W1H(前述)といった状況を総括的に捉えて、普遍性のある測定結果を導き出すことに主眼をおく工夫がその信頼性を保証する上で重要となることは言うまでものないであろう。
5. 不確かさ評価の概要
不確かさ評価に関する具体的な測定実験の配置やデータの処理方法については、他の文献を参照していただくこととするが、ここでは総括的な見通しをする上での基本概念について述べておきたい。
ある測定系あるいは測定対象に対して、不確かさの要因となる事項がどのような構造を持つかということを簡単なモデルとして捉えておくことが必要である。それは、きちんとした理論体系の上に立つものか、簡単な線形モデルとして扱えるのか、それともばらつきとしての分散を予測しながら測定するのかで大きな三つのモデルになり得るであろう。図7はその概念を簡単な数式で示したものである。このようなモデルが想定できれば、あとは実験を実施するなり、過去のデータや情報から使えるものを選び出して、個々の不確かさ成分を分解して求め、最終的には合成して総合評価を行うこととなる。