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第1の課題は、冷却の問題である。多くの舶用エンジンは、USCG規則のエンジン表面温度及び発生音の基準を満たすために、水冷却を採用している。ほとんどの場合、冷却水は海水であり、高温における腐食作用が強く触媒の寿命を短くする。したがって、触媒技術を使用する場合、海水が直接触媒に接触しない設計としなければならない。触媒を何等かのパッケージで包み、狭いエンジンスペースの中で一つの設計にまとめ上げる必要がある。

触媒技術を舶用エンジンに採用するための第2の課題は、舶用エンジンが陸上エンジンに比べ長時間より高い温度で運転されるため、触媒のHC変換効率が落ちてしまう点の解決である。

自動車エンジンの場合、触媒を用い閉じたループの電子燃料注入システムを採用して、90%以上のHC変換効率を得ている。自動車エンジンは、舶用エンジンに比べれば高温運転の時間は短く、触媒温度までが高温となってHC変換機能を発揮できなくなるというようなことはない。

触媒技術を舶用エンジンに利用する場合、高温に対する安全率として、触媒のHC変換効率を80%以下に抑える必要があり、それだけ触媒パッケージを含むエンジン設計が難しくなる。

OBエンジンで触媒技術を利用したものは未だ市販されていないが、PWC用エンジンとしてYamahaが1999モデル年から触媒技術を組み込んだエンジンをマーケットに出している。

 

エンジンメーカーは総じて、EPAのOB/PWC用2ストロークガソリンSIエンジンの、HC規制に対する技術的対応には自信を持っている。さらに、HC規制への対応は、付加的にエンジンスタートの容易さ、スモークや音の減少等の性能向上につながるという恩恵にあずかっている。

特に、PWCエンジンから発する音が沿岸住民に与える影響が問題となってきた中で、HC規制はメーカーにとって付加的に音の問題を解決する良い機会となった。

もちろん、音の問題は、HC規制対策のみで解決されるものではない。各メーカーは、HC減少技術の適用に加えて、排気システムの導設ルートの見直し、吸排気音を小さくする共鳴器の取付け、エンジンの防音支持、厚いクランクケース、音や振動の船体伝播を防ぐ吸収材や抑制材等の採用により、1999モデル年のPWCは1998モデル年のそれよりも50刧70%ほど音が小さくなっている。

NMMAは、あらゆる種類のボートから発する音を測定し対策を進めているが、エンジンハードの適切な設計変更と正しいオペレーションにより、レクリエーション用ボートの音の問題は充分解決できる問題と考えており、ボート利用者にエンジン音低減のしおりを配布し、実行するよう呼びかけている。

 

SD/IガソリンSIエンジンに使用される技術も、基本的にはOB/PWC用の技術と同じで、電子燃料注入、触媒技術であるが、もともとクリーンな4サイクルエンジンを使用しているSD/Iエンジンでは、OB/PWCエンジンに使われた技術より更に精密な技術が使用される。例えば、電子注入に酸素センサーを付加するとか、前節で述べた排ガス再循環システムの付加、触媒システムとしてHC、CO、NOxを減少する3相触媒(Three-way Catalyst)を使用する等である。

 

 

 

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