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当然のことながら、米国でも上記のごとくエンジン自体の設計を変更して排気をクリーンにする方法のほか、燃料自体の代替、置換、改質により大気の汚染を少なくする方法も積極的に実施されてきた。

天然ガスやアルコールあるいは電気、さらには、燃料電池といったいわゆる代替燃料を用いて走る自動車の研究が種々行なわれ、一部実用化しているが船舶への応用はかなり遅れている。

現在、舶用代替燃料エンジンとして注目を集めているのは、天然ガス駆動エンジンで船舶の場合スペースの制約が無いので合目的である。

電気(電池)は、原子力潜水艦以前の潜水艦の水中航走時動力として用いられ、現在も小型潜水艇に用いられているが、代替燃料として全面的に採用するには問題がある。むしろ、今後の技術開発で注目すべきは燃料電池がどこまで船舶推進用として利用されるかである。現在、米国では政府機関と民間を網羅した組織で燃料電池推進船の開発が進められている。

 

燃料の置換、改質は、1990年のCAA改正(Clean Air Act Amendments of 1990: CAAA)に盛り込まれた重要施策の一つである。CAAAに基づき、ガソリンにエタノールやMTBE(Methyl Tertiary Butyl Ether)等の酸化剤を混入して、燃料の完全燃焼を助けCOの排出を減らす方法が広く行われてきたが、MTBEを混入するとホルムアルデヒドやベンゼン、ブタジエンといった有害廃棄物の排出が多くなり、健康に害を与えることから、MTBEに対する風当たりが強くなって各地に禁止運動や訴訟が起っており、EPAも議会に対して1999年央にMTBEの使用禁止法を出すよう訴えたが、大石油会社の利権に圧されてなかなか陽の目をみない状況である。EPAは、MTBEをエタノールに切り替えるよう指導しているが、石油価格の高騰もからんで複雑な政治問題となっている。

 

本報告書は、これまでの米国における舶用エンジンの排ガス規制に関連して、国際、、国内規則の実態、排気汚染対策技術の開発状況と技術開発における官民の協力体制等に関し、従来の動きを総合的にまとめたものである。第2章は本題である第3章、第4章のより良き理解のために設けた章であるが、まず2-1“大気汚染の現況”において過去4半世紀の米国の大気清浄化への努力とその結果としての大気汚染の現況を述べ、2-2“船舶の大気汚染事例”では米国で社会問題となっている舶用エンジンからの排ガスによる大気汚染の具体的事例を考察する。いかなる規則も、規制対象の本質を理解しないと規制自体の本意を理解することはできない。そのような意味で、2-3では舶用エンジンの種類と運転方法の特質、それらから排出される排ガスの種類や特質につき触れることとする。

 

第3章では、舶用エンジンからの排ガス規制に関する規則を解説する。本報告書は米国の規則につき述べるのが、主目的であるがMARPOL 73/78附属書VIを理解しないと米国規則の理解も片手落ちになるので、3-1において附属書VIを解説する。3-2、3-3はそれぞれEPAの舶用ディーゼルエンジン、レクリエーション用ボートガソリンエンジンに対する規制値の解説である。3-4“官民の協力体制”では上記規則が作成された過程における官民の協力体制や、EPAの業界配慮につき述べる。

第4章は、排ガス対策技術につき概観したものである。4-1“概要”では4-2、4-3で詳述するディーゼルエンジンのNOx、ガソリンエンジンのHC減少技術以外の排ガス減少技術につき網羅的に触れている。4-4“MTBEの規制”は、現在米国で社会問題となっているMTBE規制の実態をまとめたものである。MTBEの問題は冒頭で述べた困った結果を解決するための環境技術が、更に困った結果を惹起した事例であり、今後とも類似事例が増えることも予想されるので一層のフォローが必要である。

 

 

 

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