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VOC 340g/lを達成するためには、より長分子の油性アルキッド塗料を使うこととなり、乾燥時間が長くなって上塗りまでの時間が延び、結果としてはドック期間が長引いてコスト増となったりしている。

 

塗装方法については、VOC 340g/lは従来のエアレス塗装機で問題はないが、VOC規制値が更に低められると、複数コンポーネント塗装機(Plural Component Spray)を使う必要が生じてくる。アボンデール造船所では、二重エアレスガン塗装機を使って成功している。従来のエアレス塗装機を使っている造船所では、塗料の組成自体を変えている。また、ある造船所では、多量低圧(High Volume Low Pressure)スプレーを使用している。

 

バスアイアンワーク造船所(メイン州)は寒冷地にあるので、低VOC塗料対策として可搬式加熱キャビネットを塗装現場近くに配置し、塗料を20度に保つことにより良好な成績を収めている。氷点下に下がらない地域にある造船所は、水性塗料を使用することがVOCやHAPsを減らす良い方法である。アボンデール造船所では、鋼板のプライマーを無機ジンクから水性エポキシアクリルプライマーに代えて、VOC 240g/lを達成している。樹脂型の100%無溶剤(NOVOC)塗料の開発も進められているが、現時点で造船所で実用化されているNOVOC塗料は粉体塗装である。

 

潜水艦の建造所として有名なエレクトリックボート造船所では、海軍仕様の粉体エポキシ(MIL−C−24712)あるいは特に許された市販エポキシを潜水艦のハンガー、ブラケット、キャスティング等の小物の塗装に使用している。粉体塗装は、金属表面に粉体を電気スプレーして熱により粉体が溶け200ミクロン程度の膜厚を一気に形成し最終的にオーブンで焼き固めるもので被塗装体の大きさはオーブンの中に入れることのできる小物に限られるが、VOCを減らす効果とともに200ミクロンの膜厚を一回で塗装できるので生産時間を減らす効果も大きい。粉体塗装では30万ドル〜50万ドルの初期投資が必要であるが、労働力の減少、自動塗装による効率増等により通常5年で償却可能といわれている。

 

海軍では、塗料の付着効率を高めVOCの大気排出を抑えるため、特殊ノズル、センサー、VOC回収システムを備えた自動塗装機(Automated Dry Dock Painting Technology)を開発中である。本技術により、塗装中に発生するトルエン、キシレン、メチルエチルケトン等大気中に排出されるHAPsが回収され、塗料中の銅や亜鉛等の有害物質が水中に浸出する問題も解決される。

 

VOCの大気排出を減らす他の方法は、発生したVOCを焼却炉で燃やすか、回収装置を付けてリサイクルする方法である。従来の焼却炉や回収装置は高価であり操作が複雑であるため、小規模の工場やマリーナでの採用は不可能で、米国の現状では排出される全VOC量の10%が焼却炉や回収装置で処理されているにすぎない。しかし、VOC規制の強化につれ、小規模の工場やマリーナでも採用可能な装置の開発が求められている。

 

 

 

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