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6-3 揮発性有機化合物と有害大気汚染物質

 

過去5年間、EPAは造船所で使用される塗装溶剤から排出される揮発性有機化合物(Volatile Organic Compond: VOC)についての基準を制定してきた。VOCは大気中のNOx等と作用してある条件下で地表オゾンを形成し、人体の呼吸器を害し作物や森林を損なう。米国では、カリフォルニア州において1966年VOC規制が開始され、連邦レベルでは1970年のCAA公布により本格的に規制されることとなった。

CAAは、大気中に放出された場合有毒と認められる189の物質を有害大気汚染物質(Hazardous Air Pollutants: HAPs)に指定したが、この中に造船所で使用されるトルエン、キシレン等の塗装溶剤のほとんど全てが含まれている。これらのHAPsはVOCとして空気中に放出されるが、VOCの全てがHAPsではなく、鉱石エキスのようなものはVOCではあるがHAPsの中には入っていない。

1994年、EPAは造船所の塗装溶剤から排出されるVOCをHAPsの原因物と指定し、VOCを減らすことが自動的に揮発性HAPsを減らすことにつながると位置づけたが、VOCとHAPsの規制値は別々に出している。

 

1995年11月15日、EPAは造船業に対するHAPs排出の規制法規“Final Air Toxic Regulation for the Shipbuilding and Ship Repair Facility”を公布し1997年12月に発効している。本規則により、造船所における塗装時のVOC、HAPsの総量が規制されることとなり、種々のタイプの塗装に関する最大許容VOC、HAPsがリスト化された(第6-1表)。

規制対象となる造船所は、一つのHAPsの年間排出量が9.1トンあるいは複合HAPsの年間排出量が22.8トン以上の事業所とされ、全米で35の造船所及び修理船工場が排出基準に合格していることを示す記録を提出することが義務づけられた。

 

VOC規制値は、元来オゾンレベルの高い地域にある造船所にのみ適用される方が合理的であるが、上述のごとくEPAは規制の中でVOCとHAPsを切り離せないものと考えているので、VOC規制も全国の造船所に均等に適用されることになった。

一般に、米国の造船所及び塗装業者はEPAのHAPs及びVOCの規制値を許容可能な値と考えているが、VOC値をベースとキュアリング剤の全ての組み合わせについてバッチごとに測定すべしとの要求に対しては過度で金がかかりすぎるとして反対した。この結果、この条項は緩和されている。

VOC及びHAPs規制に関するインパクトについて、EPAは各造船所に問い合わせたが、各造船所とも規制公布前にこのことを予想して用意していたことが分かった。VOCの排出を低く抑えたことにより、塗料、塗装方法、塗装器具等が少なからぬ影響を受けた。例えば、エポキシ塗料のVOCを減らすため低分子量の樹脂を用い、従来のエポキシと同じ程度の架橋効果を得る必要がある。ポットライフを低くしなければならず、また、ある場合には混合比そのものを変える必要がある。

 

 

 

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