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米国製のディーゼルエンジンは、従来一部を除いてほとんど高速ディーゼルであったが、過去10年間これ等米国舶用ディーゼルエンジンメーカーはヨーロッパのメーカーと結びつきを強めることにより、中速エンジン分野への進出と排ガス対応技術の取得を果たしている。

 

キャタピラー(CAT)は米国の代表的ディーゼルエンジンメーカーであるが、自社の高速エンジンに電子制御モジュール(ECM)と称するマイクロプロセッサー装置を装備し、エンジンに埋め込まれたセンサーからの情報を分析し燃料注入のタイミングと持続時間を調整し、燃料効率を最適化するとともに排気を減少させる技術を完成し、出力1,000−2,000hpの舶用エンジンを売り出している。

さらに、1995年CATはドイツのKrupp Makを買収し中速エンジン分野に進出するとともに、Makが持っていた排ガス技術を手に入れた。買収された時点でMakはNOx減少の基本的技術である燃料の噴射時期を遅らせ、燃料注入圧を高め同時に燃料消費量を増やさない手段として、圧縮比を高める技術を取り入れた製品を発売して附属書VIの規制値はクリアーしていたが、更に厳しいNOx50%減の基準発効に備えて、エンジン設計の変更、水注入システム、選択接触還元法(Selective Catalytic Reduction: SCR)の研究を進めているところであった。

 

中型、大型ディーゼルエンジンのNOx減少技術の3本柱は、上述の噴射時期遅延/高圧注入、水注入、SCRで、世界中のメーカーが開発製品を発売している。ディーゼルエンジンのNOx生成には2つのソースがある。一つは燃焼空気中のN2が圧縮高温発火時に酸化する熱酸化窒素(Thermal NOx)、他は燃料中のN2が酸化する燃料酸化窒素(Fuel NOx)である。

内訳としては大部分が熱酸化窒素であり、燃料酸化窒素は全体の10〜20%にすぎないので、熱酸化窒素を抑えることがNOx排出減少の決め手となる。熱酸化窒素は温度が高ければ高いほど、滞留時間が長ければ長いほど多くなる。逆にいうと、燃焼室の温度を下げピークの持続時間を短くすることが、NOx減少の決め手となる。現在ディーゼルエンジン業界で最も広く利用されているNOx減少の基本的手法は、燃料の噴射時期を遅らせ、燃料注入圧を高め、同時に燃料消費量を増やさない手段として圧縮比を高める方法である(第6-1図)。

 

燃焼行程に水を注入することによっても、NOxを減少することが可能である。水の注入によりNOxの生成にかかわるO2の部分圧が減り、水の蒸発に必要なエネルギーにより熱負荷が減るため、NOx生成が抑えられる。水の注入法は2つあって、一つは水と燃料をエマルジョン化する方法、他は水を直接注入する方法で、前者に比べはるかに優れた方法である。水直接注入法で最も大切なのは、燃料インジェクターと水インジェクターを備え、電子的に両インジェクターの作動を制御する性能の良い複合バルブの設計である(第6-2図)。

NOx減少の決め手となる技術は、SCRである。SCRはエンジンそのものをいじるのではなく、エンジンの排気ガス中のNOxをアンモニアあるいは尿素と反応させるもので、NOx90〜95%の減少が可能である。

 

 

 

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