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上記175種の危険物質を運ぶタンク船は、全て運航計画書を提出しなければならない。基準そのものはOPA90の油濁に対するものと似ているが、化学物質に対する対応は個々の物質に対して専門の知識が必要であり、NPRMの中でも各物質に特有のQI(Qualified Individual)と対応現場で総指揮をとるIC(Incident Commander)を要求し、また、ICに対する特殊訓練についても規定している。

 

さらに、NPRMは船会社が輸送開始前に化学物質汚濁対応会社と契約することを求めている。化学物質汚濁では、特殊技術を有する人々が1日24時間いつでも出動できる態勢になければならない。これらの特殊技術者は、当該化学製品の専門家、毒物学者、免許証保持のマリーン化学者、化学者あるいは化学技術者、免許証保持の産業衛生学者等幅広い専門家群が必要である。もちろん、常時これ等全ての専門家が必要な訳ではないが、少なくとも必要に応じて招集できる体制は必要である。

 

NPRMで最も大切な点は、汚濁対応に対するリスクベースの決定支援手順(Risk Based Decision Support Process: RBDSP)を求めていることである。この場合、Riskは人間の健康と環境に対するリスクであり、ProcessはRiskの識別、評価、コントロールを助ける手順を記したものであるが、形式は自由でデシジョンツリー(Decision Tree)のようなものでも良いし自動化された支援システムのようなものでも良いとしている。ただし、下記の4点が確実に盛り込まれていなければならない。

*リスクの識別(Risk Identification)

*リスク評価(Risk Evaluation)

*リスク管理(Risk Control)

*リスク交信(Risk Communication)

 

船会社にとって独自のRBDSPを作ることはかなり負担であるので、USCGが基本的なRBDPSを作って配布すべきであるとの声が上がっている。また、USCG側にとっても、各船会社が個々に提出するRBDSPの承認業務は膨大である。化学物質は油に比して非常に複雑であり、危険である。

例えば、EDC(Ethylene Dichloride)は発ガン性物質の疑いがある物資であるが、比重は1.26で水中では水に溶けることなく沈んでいく。アスファルトと同じ回収方法が示唆されているが、問題は回収に使用する機器を構成する多くの物質を溶かすことである。そのためステンレス製の容器で運ばれるが、EDC回収機器が全てステンレス製であるべきかどうかの回答は得られていない。

 

 

 

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