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したがって、船舶からの全ての液体廃棄物を網羅する技術基準も作られなかったのが実状である。今後、環境問題の進展とともに船舶にもCWAのNPDES許可を強制すべしとの声もあり、港内の陸上施設からの水質基準を船舶にも適用することを考えている向きもあるが、ある時期港に停泊する船舶の数は大幅に異なるので船舶の水質基準を作るのは非常に難しい。船舶の場合は、港ごとに異なる水質基準よりはCWAを離れて連邦で統一した技術基準を作る方が合理的であることは、自動車、機関車、航空機その他のエンジンからの排気による大気汚染の場合と同じである。

 

環境団体は、動くポイントソースとしての船舶からの排出基準の不備について機会あるごとに指摘してきた。特に、クルーズ船から大量に排出されるグレー水やブラック水について、どの規定が適用されどの規定が適用されないかの明確な答えがないとCWAの不明確さを厳しく批判している。これらの批判に応えて、1996年国防承認法は海軍がEPAと協力してきちんとした船舶の連邦統一排出基準(Uniform National Discharge Standard: UNDS)を作成することを求めている。UNDSについては第5-4節で詳述するが、このためにCWAの一部が改正されたのはもちろんである。

UNDSの適用は当面艦艇とUSCGカッターに限られるが、将来一部改正して商船にも適用されることは十分考えられる。

 

現在海軍が提案しているUNDSは、CWAのブラック水処理基準をモデルにしている。CWA312に基づき、EPAは舶用衛生装置(Marine Sanitation Device: MSD)の連邦統一基準を定め(33USC 1322(b)(1))、さらに、装置の設計、製造、設置、運転に関する詳細規則が民間船の場合は沿岸警備隊(United States Coast Guard: USCG)規則として33CFR 159に、艦艇の場合は国防総省(Department of Defense: DOD)規則に定められている。

USCGのMSD規則については第2-4節で詳述するが、この規則はMSDの詳細について全国統一基準の考え方が尊重され州や地域の独自性を認めていない。ただし、州が州の海域を連邦規則以上にクリーンに保とうとする場合には、州は州のブラック水非排出域(No Discharge Zone)を設定することが可能である(33USC 1322)。非排水域の設定に当たり、州はEPAにその州が充分なブラック水の陸上処理施設を有していることを示さなければならない。

 

大気汚染に関係するCAAの方は、南カリフォルニア沿岸やアラスカにおける一般船舶あるいはクルーズ船からの大気汚染といった特殊事例を除けば、州や地域を超えた広範な地域を対象とした連邦法による規制の方が合理的であることは容易に理解される(42USC 7521-7554)。

1970年CAAが公布され、EPAはまず環境と健康を守るための大気基準(National Ambient Air Quality Standard: NAAQS)を作成した。NAAQSはCO、NOx、SOx、VOC、PM、鉛の6種(1997年以降アンモニアを加えて7種)の大気汚染物質(Criteria Pollutants: CPs)の中の一つ以上が持続的にNAAQSを超えている地域を未達成地域(Non−Attainment Area: NA)とし、NAAQSを達成するよう特別の指導を施すこととした。

 

 

 

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