1990年代クルーズ船業界は多くの汚点を残した。連邦一般会計局(General Accounting Office: GAO)は、1993年から98年までの5年間で外国籍船による米国領海内での不法廃棄は2,400件あり、そのうち100件はクルーズ船によるものであったと報告している。同時にクルーズ船業界の環境問題に対する取組みの甘さは環境団体の攻撃の的となり、北米17のクルーズ船運航会社が会員となっている国際クルーズ船協議会ではクルーズ船の環境基準を作成し会員社船の質向上に努めている。このようなムードの中で、各クルーズ船会社も自社船の環境対策に真剣に取り組んでいる。例えば、1999年7月不法廃棄で18百万ドルの罰金を支払わされたロイヤルカリビアン社は、元EPA長官W. K. Reillyを環境担当役員に迎え国内外の環境法規を超える厳しい社内基準を作成して対処している。レクリエーション用ボート業界で環境問題の基本方針を作成する立場にある米国ボート製造業者協会(NMMA)では、“Water Watch”と称する小冊子を配布して会員を啓蒙している。
本報告書は、船舶から排出される固形、液体廃棄物及び排ガスの処理技術の考え方と舶用機械の実際につき米国の現状を述べることを目的としたものである。前述のごとく、米国の船舶の環境問題は油濁の側面が強く年に1回国際油濁防止会議が開かれ多くの機械が紹介されているが、これ等は貨物としての油の排出に対するものであり、また、大型の機械はヨーロッパ製が主流なので、油濁関係については第2-3節“油濁防止法”の解説の中で大筋のみを解説するにとどめた。
第2章は船舶関連の環境法規として最も大切な国際法及び国内法を解説したものであるが、いずれも本報告書の各所で引用されている法規である。国際法としては国連海洋法及びMARPOL73/78、国内法としてはCWA、CAA、油濁防止法、連邦実施規則を取り上げた。
第3章で、海軍、クルーズ船業界、ロイヤルカリビアン社、レクリエーション用ボート業界の環境基本方針を解説し、第4章以降の具体的環境機器に対する理解の手助けとした。
第4-6章で、本報告書の主題である廃棄物の具体的処理技術につき述べる。第4章は固形廃棄物、第5章は液体廃棄物、第6章ではその他の環境項目の処理技術を集めているが、第6-2節“有機すず化合物防汚塗料”以外は全て気体排気物関連となっている。