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船舶の海洋、大気汚染に関連して最も大切な国内法は水質浄化法(Clean Water Act: CWA)と大気浄化法(Clean Air ACT: CAA)であるが、CWA、CAAともに州及び地域の環境に対する独自の立法権を認めている。CWAは湖や河川等地域性の強い対象も規制しているので、CWAが州や地域の独自立法の妨げとならないこと、EPAをはじめとする政府機関は独自立法に協力すべきことが明記されている。CAAの場合は、大気という境界を作りにくい対象に対する規制であり、カリフォルニア州その他数少ない例外を除いては立法の独自性はずっと制限されたものとなっている。一般的に、自動車や船舶等の移動汚染源からの州独自排出基準はCAAと同等でなければならず、また、各州はEPAの定めた環境排出基準に合格するための具体的方策を作成し、EPAの承認を所得しなければならない。いずれにせよ、米国の環境法は複雑であり、連邦法、州法、地域法、環境団体が裁判で勝ち取った判決法に加えて、法律と同じ効果を持つ大統領命令(Executive Order: EO)があり最近環境関係のものが多くなっているので、それらの相関関係を良く理解して適用を誤らないよう注意する必要がある。

 

米国の造船業及び海運業は一般商船の分野では世界をリードする立場にないが、乗員数が多く廃棄物の管理(Waste Management)という意味で環境汚染と最も関係が深い艦艇、クルーズ船、さらに、環境問題を引き起こしやすい内陸水運船舶やレクリエーション用ボートの分野では依然世界をリードする立場にあり、これらの分野での環境に優しい船舶と舶用機械の設計、研究は盛んである。また、船舶建造時、スクラップ時における環境劣化防止技術の開発も積極的に進められている。

 

さらに、米国の環境問題を考える場合、世界中で稼動する10,000DWT以上のタンカーの40%以上が米国に寄港し、それらの大部分が外国籍船であるため米国海域の環境上の安全を守るための寄港国管理(Port State Control: PSC)の発動が非常に重要である。このことは、米国に本社を持ち米国人の船客をあてこんだクルーズ船のほとんど全てが外国籍船であるクルーズ船業界の場合にも当てはまる。しかし、これ等外国籍船の寄港増大は海運政策、税制、経済原則がもたらしたものであり、環境保護の立場からはPSCの強化と旗国(Flag State)との情報交換強化で対応するしか手がない。上記に加えて、米国の環境問題で特徴的なのは、油濁防止の側面が非常に強いことである。油濁即応産業とも称すべき一つの産業を形成しているほどである。

 

米国で船舶の汚染防止について最も組織的に研究を進めているのは海軍であり、“21世紀環境健全船舶ビジョン(ESS−21)”を作成し、海軍最高司令官(Chief of Naval Operation: CNO)直属の部局の管理下で海軍艦艇システム司令部が具体的プロジェクトを推進している。環境に優しい艦艇を設計することの難しさは、重量と容積制限の厳しい艦艇の戦闘能力を損なうことなく世界の環境法規を充足したシステムにまとめ上げることであり、そのために先端的技術開発が必要となる。海軍ではこの点を充分理解して開発を進めており、開発成果は部分的あるいは全体的に商船にも適用可能なものが多数あるのでどしどし利用して欲しいとのことであり、海軍の研究動向の調査は非常に重要である。

 

 

 

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