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8.2 ケース・スタディーで見る各社のRoPax投入にあたっての判断の実際

8.2.1 ケース・スタディー1<貨物フェリー会社の場合>

この船社は北海と英仏海峡横断航路に配船している。単なる貨物フェリー会社ではなくイギリスと大陸との間の諸航路で活動する一貫輸送事業者である。すなわち自社の車両を提供し、自社独自の標章を掲げて荷主企業にトレーラ・サービスを提供する。

海上区間で提供されるサービスは無人トレーラの輸送であるが、自社貨物だけでスペースを埋めることはできないので、全航路で他の有人トレーラ輸送事業者と競合して第三者へのスペースサービスも提供している。

この船社は自前の海峡横断サービスを開設できるだけの客筋を確保している。しかし適当な在来型貨物専用RoRoフェリーを保有していないので、A1型RoPax1隻を用船した。

この航路の所要時間は2時間なので、1日3航海を確保するには、港での停泊時間が2時間しか取れないため、この船にとって一つの決定的要素はドライブ・オン、ドライブ・スルーが可能という点である。もう一つの決定的要素はその船が用船可能だったということである。自社船を新造するには3年待たなければならない。

この船社は、同じ航路の主要なフェリー・オペレーターの毎時サービスによる毎時4便のシャトル輸送に対抗するため、さらに2隻の用船を必要としている。有人トレーラ輸送と有効に競合するには1日9航海が必要とされる。必要な2隻のうち1隻は見つかっている。

旅客輸送能力や船室は全く無関係であり、たとえあっても旅客輸送に実際に使用することはない。この船社は純然たる貨物フェリーのオペレーターであり、旅客輸送は企業の性格と相容れないので、旅客を求めて競合する意図は全くない。旅客は広範にわたる付加的な保護とサービスを必要とし、それに対処する能力をこの船社は備えていないので、したがって旅客を乗せれば問題が生じるだけである。

 

8.2.2 ケース・スタディー2<多様なサービスを行うフェリー会社の場合>

英本土の各航路に配船し、トレーラは有人・無人とも扱い、旅客輸送も行っている船社。貨物サービスの一つは、ケース・スタディー1の場合と同様、自社のトレーラを使った一貫輸送である。投入船舶はA1、A3両型のRoPaxで、新造船はヨーロッパ域内、極東の両方に発注している。

RoPaxを採用したのは貨物の他に旅客輸送も可能で、2種類の収入源を得られるからである。船舶の仕様について主要なポイントは以下の通り。

・旅客・貨物間の適切なバランス

・乗用車と貨物車の分離の可否

特に設計にかかわる事項はないが、復原性と不沈性は当然、決定的な要因である。RoPaxは貨物船であり、やせ形の船ではあり得ない。仕上りの質はきわめて重要で、内装デザインは専門コンサルタント会社に委嘱したが、船自体は船社内部の造船技師が造船所と協議して設計を決めた。

速力は単に、最大の船の稼働率を得るための所要航海時間の関数である。しかし、船社の希望と、旅客、荷主側の希望とが矛盾する場合もあり得る。貨物の輸送は速いほどよいのが普通であるが、中距離航路では旅客は、午前中の常識的な時間に下船できることを希望する。

最新のA3型RoPaxを発注するに当たって、この船社は12の造船所と接触した。この船型はどの造船所でも建造できるというものではないため、建造能力にしたがって12社を選択している。12社をすぐに、船台の空きがある半数に絞り込んだが、うち1社は、韓国、2社はイタリアの造船所であった。

 

 

 

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