日本財団 図書館


第5章:造船所の選定

 

5.1 造船所選定のプロセス

新造船計画に当たって造船所を選定する通常の手順は、特定の航路または一定の範囲の航路に新造船の投入が必要であると判断した船主が、30ページにも及ぶ文書である自社側の一般仕様書を提示することに始まる。一般仕様書には船型、船速、搭載機器、甲板配置、船室数、サービスの内容、特殊設備、さらに場合によっては好みの機関までもが記載される。船主は次に、類似の設計を有していると認められる複数の候補造船所―大抵は連絡の便からヨーロッパ域内の造船所―を指名する。入札を募る段階で、船主は通常、造船所側と綿密な打ち合わせをする。両者間には緊密な個人的なつながりがある場合が多い。これに続いて交渉が始まる。船価は広く報道されるので、市場価格は知れ渡っている。

当初の仕様書を作成する能力は発注企業の規模により千差万別で、これにより設計に関する造船所と船主間の責任の分担比率が変化する。大手の海運会社であれば社内に造船技師を抱えているが、工務部長は外部のコンサルタントや造船技師を起用することもできるし、また最近ではそういう事例の方が多い。例えば荷役装置や所与の船型・船速要件に対する設計の最適化などに関する詳細仕様は、船主と選定された造船所が協議して決定する。

海運会社では自社の将来について独自のビジョンを掲げた強烈な個性の持主がリーダーである場合が多い。このような個性的リーダーがいる場合には、必然的にその人物が仕様決定や発注の過程で大きな役割を果たすことになる。ごく少数のP&OやMaerskのような大企業ではコンセンサスにより経営される事例が多い。この過程に参画する主な部門は営業、工務、財務を所管する部門で、企業によっては企画部や事業開発部といった部門があって、それらも参加することになる。

ある船主の説明によると、その会社では会長と工務部長が主導する経営首脳部のプロジェクト・チームが中心になって、営業計画や営業上の要件については営業部長の進言を受けるという形で作業が進められる。おおよその仕様書を社内で作成し、以前に発注した実績のある造船会社2社から、その概略仕様に基づいた船価見積りを出させる。この会社ではさらに他のヨーロッパと極東の造船所2社ずつに、同様の概略仕様に基づいて船価を照会している。造船所の選定が決まると、船主はその造船所と共同で水槽試験や設計最適化を行うとともに、造船所で技術的な監督を行う。

この船主の場合には、極東の2社が品質面または船価で折り合わなかったので、ヨーロッパでは最も低い船価を提示した従来から取引きのあった造船所に発注が決まった。その他、発注決定には以下のような要素があった。

・品質についての船主自身の経験。

・造船所との良好なコミュニケーション可能性。

・建造過程における船主関与の可能性。

造船所は特定の船主向けに斬新な船型を開発すると、特定の船種の建造で名声を得ることになる。特にStenaは新船型の開発で知られている。各造船所は同種の新造船の受注を期待して自社の建造船を宣伝することはやるが、発注のないまま自社で設計を行い、それを売り込もうとすることはしない。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION