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はじめに

 

1920年商船法により、米国の国内沿岸航路は、米国人所有、米国籍、米国建造で米国人配乗の商船の使用が義務づけられている。ジョーンズ・アクトとして周知されているこの内航保護制度は、数々の批判や非難に耐え、米国海事法で最も影響力の強い制度となっている。クルーズ旅客船や内航曳船等のその他の内航規制を含めた広義のジョーンズ・アクト制度は、経済的観点や国家安全保障の大義名分の下、党派を超えた支持を集め、結成された政治的同盟は長年にわたり同制度の擁護活動を続けている。

1990年代半ばから、ジョーンズ・アクトはその効果と損失について、厳しい議論の対象となったが、ジョーンズ・アクト支持同盟が一致団結して擁護活動に力を入れた結果、ジョーンズ・アクトの廃止や改革を図る勢力を圧倒し、今日に至るもジョーンズ・アクトは無傷で存続している。ジョーンズ・アクト廃止・改革派は、議会の有力議員に圧力をかけるだけの社会的関心を集めることができず、自滅状態にある。ジョーンズ・アクト廃止・改革を主張する団体や企業は、しばしば政治的声明を発表しはしたが、この案件を最優先事項しようという必然性も意図もなかった。

この報告書では、ジョーンズ・アクト制度の内容や適用、制度支持派と改革派の攻防及び制度の今後の見通しをとりまとめた。ただし、ジョーンズ・アクト制度やこの制度を巡る動きをより良く理解するためには、この制度が保護している米国内航海運の実態を良く知る必要があろう。また、この制度で内航船市場を完全に保護されている米国造船業、特に内航海運と関係のある造船業の現状も把握する必要がある。

そこで、この報告書では、第1部として、「米国内航海運の実態と米国造船業の現状」を簡単に紹介する。第2部では、「ジョーンズ・アクト」と総称される米国の内航海運保護制度についてその概要をまとめ、また適用や適用免除について紹介する。第3部では、1987年以降のジョーンズ・アクト制度の改革の動きとこれに抵抗するジョーンズ・アクト支持派の動きについて紹介する。第4部では、改革と擁護の動きの中で、顕著なものや特に議論を呼んだ15件の法案や決議案について解説する。

 

 

 

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