3 米国海運業のM&A
3-1 世界海運業の趨勢
本章では本報告書の主題である米国海運業のM&Aの実情を考察するが、その前に米国海運業をM&Aに巻き込んだ世界の趨勢を概説する。
表3-1は1999年12月中から2000年3月中迄の3ヶ月間の世界海運界のM&Aの状況を示したものである(Marine Money、2000年3月号)。最近では3ヶ月の期間に表3-1に示す位の数のM&Aが世界の何処かで行われている。表3-1にもカナダの代表的海運会社であるモントリオールのCSLが、前節で述べた米国のMarbulkの買収を交渉中である等、米国の海運業も含め世界の海運業のM&Aが日常茶飯事であることを示している。
海運業のM&Aはタンカー、ライナー、不定期貨物船の何れの業界においても普遍的に行われている。タンカーの世界では1998年初頭世界最大の石油及びケミカル輸送・ロジスチックスのグループがオランダの巨大会社Van OmmerenとPakhoedの合併で出現した。
また、バルクキャリアの世界で世界最大を主張するのはP&O Bulk Carriersと中国のShangangグループのケープサイズ・バルクキャリア同士の合併会社である。しかし今回のM&Aの主役は何といってもライナー部門であり、米国の海運界が最も影響を受けているのもライナー部門であるので、以下ライナー部門を中心に世界の趨勢を考察する。
前述のように、海運業は発展途上国の参入も容易であり国家安全保障上の目的から参入各国が船を作り過ぎるのでライナー業界は世界中のルートでオーバー・キャパシテイに悩まされ続けてきた。オーバー・キャパシテイは低船価を招き、さらにこの低船価を捉えて世界中の船主が新造船を発注するので事態はさらに悪い方向に向かっている。オーバー・キャパシテイはコンテナの輸送レートを下げ海運業界は益々じり貧となっている。これらの傾向は1990年代を特徴づけるものであったがレートの低下は1999年になってもずっと続いている。(図3-1参照)