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序文

 

第二次大戦後、米国の造船業界は、急速に商船建造量を減らし、最近では外航商船の建造量は、ほとんど皆無となっている。また、世界に先駆けて海上コンテナ輸送を実用化し、今日のコンテナ世代を作り上げた米国海運業界にも、昔日の活力は見られない。我が国でも、幾たびか海運集約の変遷を遂げてきたが、本報告書でも紹介されている通り、米国では1990年代以降名門「Sealand」を初めとする四大海運会社がこぞって外国資本の海運会社に、その全部あるいは一部を買収されるという事態に立ち至っている。このような事態のもと、この調査は、造船業界の発注主である海運業界、特に米国の海運業界の動向や米国における海運集約化の実態を明らかにし、今後の造船需要を予測する上での基礎的資料とするとともに、米国造船業界に与える影響を予測することを目的として実施されたものである。

一方、米国の海運業界は、ジョーンズ・アクトや様々な法令により保護され、助成を受けている。例えば、ジョーンズ・アクトでは、米国の内航船(内航船といえどもアラスカ石油輸送に従事するVLCCも含まれる)は、米国籍(米国会社所有)、米国建造、米国人船員という制限を設け、米国海運業界を保護しており、この保護については、米国造船業界も恩恵を被っている、といえる。ただし、ジョーンズ・アクトは米国建造船の義務付けにより、技術開発の停滞、船価の高騰、いきすぎた競争緩和という弊害もあり、結果として内航船主の発注意欲減退という側面も有している。なおジョーンズ・アクトの詳細、効能や弊害、今後の見通し等は、今年度実施した別途の調査に詳しいので、当該調査報告書を参照されたい。

ひるがえって、米国の内航海運には、船腹調整制度等はなく、参入も運賃設定も全くの自由であり、対外的に保護されているが、国内的には自由競争の業界であるといえる。このような状況のもと、米国でも内航海運は相当程度の国内輸送を引き受けている。ただし、我が国と異なるのは、広大な湖や長大な河川を利用した湖川輸送(内水輸送)が極めて盛んであり、しかもこの主力がバージである点である。米国における海運集約の流れは、内航海運業界も例外ではなく、1990年代以降、多くの内航海運会社が同業他社や異業種に買収され、集約化されてきた。我が国の読者にとっては、米国の内航海運はなじみの薄い存在であるかもしれないが、米国造船市場で大きな地位を占めているのは事実であり、米国造船業界に与える影響も大きいことから、米国内航海運業界の集約化についても詳細に調査した。

また、米国では、海運政策は国家安全保障政策の一環として明確に位置付けられており、一定量の米国人配乗の米国籍外航商船は必要との観点から、これらの船舶を運航する米国海運会社は、政府から助成を得ることができる。

 

 

 

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