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第4章 まとめ

 

I 合併・買収の目的、背景

欧州の舶用産業においても他の産業と同様競争力の強化のため、企業の合併・買収が盛んに行なわれている。

一般的に、企業の合併・買収により達成できる戦略的目的としては、従来から揚げられているものとして、1]ノウハウやブランドの取得、2]自社にないビジネス機能の取り込み、3]関連・新規事業への進出、4]新地域への進出等がある。また、最近の合併・買収で顕著になってきた新しい戦略目的としては、1]リストラクチャリング(事業ポートフォリオの再構築)、2]デファクト・スタンダードの確立、3]業界再編・統合等が揚げられている。

今回取り上げた3つの事例でも合併・買収の背景、企業戦略、成果等を見ると、いずれのケースもこれらのいくつかを目的として合併・買収を実施し、競争力の強化を図ろうとしていることがわかる。

例えば、FlendarはLohmann & Stolterfohtの買収により舶用歯車装置製造のノウハウを獲得し、HamworthとRolls-Royceも買収によりそれまで自社になかった製品の製造ノウハウを獲得している。

また、Flenderは買収により新たに舶用歯車市場に参入でき、Hamworthyも買収によりRO-RO船、自動車運搬船市場への参入が可能になるとともにKSEの製品をオフショア市場にも投入した。Rolls-Royceは海軍市場においてリーダー的立場であったが、Vickers Ulstein Marine Systems(VUMS)の買収により商船市場におけるリーダー的立場を確立した。

さらに、Hamworthyは買収によりノルウェー、スウェーデン、ドイツの船主・造船所との関係が強化され、顧客の拡大が図られた。VickersはUlsteinの買収により北米やアジア・太平洋地区の市場に参入できるようになった。

このほか、最近Flenderは中心業務を強化するため多くの事業を売却しており、Hamworthyの親会社であるPowell Duffrynもリストラクチャリングのため、かつては同社の主要事業であった石炭・LPG・石油の流通事業を売却している。

舶用企業の合併・買収の特徴としては、合併・買収の背景の一つに、総合システム(integrated system solution)に対する顧客要望の増大への対応が揚げられることである。今回調査した3つのケースのうち、HamworthyとRolls-Royceの2つの事例では、合併・買収の大きな理由に総合システムに対する顧客要望への対応があった。

即ち、この要望に対応するため、Vickersは、Ulsteinを買収することにより、プロペラ、ウォータージェット、エンジン、スラスター、舵、スタビライズィングシステム、ステアリングギアシステム、自動制御機器、電気沿革制御システム、配電盤、甲板機器、荷役装置等広範囲な製品を提供できる企業を傘下におき、これにより、推進システム、位置制御システム等の統合システムの提供能力を強化した。

 

 

 

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