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仮に、ニューポート・ニューズ造船とアボンデール・インダストリーズの合併が成立し、これをジェネラル・ダイナミクスが買収したとすると、ジェネラル・ダイナミクスは艦艇を建造する大手6大造船所のうち5つを掌中に入れることになり、艦艇建造の8割を支配することになる。とりわけ原子力空母と原子力潜水艦の建造については、米国で唯一の造船会社となる。このため関係者の間では、競争上の問題が直ちに取り沙汰され始めた。国防総省も、ニューポート・ニューズ造船の要請に基づき、反トラスト法の観点からの影響評価を始めた。司法省も、買収承認申請の提出前であるにもかかわらず、異例の買収情報提供要求を行った。

ジェネラル・ダイナミクス及びニューポート・ニューズ造船の両社は、それぞれの立場から議会の支持を集めるためのロビーイングを展開した。ジェネラル・ダイナミクスは、両社の統合による間接費の節減等により今後10年間で25億ドルの節約を国防総省にもたらすと主張した。一方、ニューポート・ニューズ造船は、両社の統合は今後の競争を損なうとともに、いずれどちらかの造船所が閉鎖されることになり、公益に則さないとの主張を展開した。

結局、1999年4月14日に国防総省は、ジェネラル・ダイナミクスによるニューポート・ニューズ造船買収は認められないとの判断を下した。ウイリアム・コーエン国防長官は、両社の統合によるコスト節減効果よりも、艦艇建造分野における競争に与える悪影響の方が重要であるとの立場を示した。特に、原子力潜水艦の建造造船所がジェネラル・ダイナミクス1社となることが、今後の競争を低下させることに懸念を表明している。また国防総省の分析によれば、両社の統合により、造船エンジニアリング能力の75%以上、海軍の研究開発投資の95%以上がジェネラル・ダイナミクスに集中することになると結論している。

なお本裁定の後に、海軍とニューポート・ニューズ造船は1999〜2003年の間に総額3億6,000万ドルのコスト削減を行う契約を結んでいるが、これはジェネラル・ダイナミクスによる買収を国防総省が却下したいわば「見返り」として、同買収が流れたことにより実現できなかったコスト削減の一部をニューポート・ニューズ造船に負わせたものである。

 

 

 

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