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はじめに

 

米国においては、冷戦構造の終結とともにソビエト連邦の拡大を牽制するための軍備の必要性が薄れたために、1980年代に年間平均20隻近くあった艦艇発注が最近では年間平均6隻程度と大幅に低減し、大幅な需給ギャップが生じている。

このように大幅に減少した艦艇需要を補完するために、米国造船業は商船建造市場への再参入を目指しているが、例えば6大造船所のひとつであるニューポート・ニューズ造船が商船建造市場からの撤退を1998年春に発表するなど、当初の目論見どおりには行っていないのが現状である。

このような状況を反映して、ここ数年間にわたって米国造船業では非常に活発なM&Aが行われてきた。特に1998年前半からわずか約1年の間に、ジェネラル・ダイナミクスがNASSCOを、リットン・インダストリーズがアボンデール・インダストリーズをそれぞれ買収し、艦艇建造を中心とする6大大手造船所が3グループに集約化されたほか、フリード・ゴールドマン・インターナショナルがオフショア部門のライバルであるハルター・マリン・グループを買収するなど商船建造を中心とする造船所においても業界の再編が急速に進んでいる。

一方、国際商船市場も韓国の設備拡張等により供給力過剰の状態に陥っており、その結果生じた船価の低迷が企業の採算性を大きく圧迫している。このような状況は2000年代初頭以降予想される新造船需要の低迷により、ますます拍車がかかることが懸念される。このような業況を反映して、大宇やクバナのような大手造船企業が造船部門からの撤退を相次いで発表するなど、最近の国際商船市場は混迷の度合いを増している。

わが国においても、造船業構造問題研究会が、このような業況の悪化を踏まえて、需要の低迷が予想される21世紀初頭においてわが国造船業が国際競争力を引き続き維持し、安定した成長を遂げていくために、わが国造船業界の再編・集約化のあり方について1998年8月に報告をまとめたところである。本研究会における結論はあくまでも業界に対するベストシナリオを提言したものであり、今後M&A等を具体的に検討し、これを進めていくメインプレイヤーは個別の造船企業であることはいうまでもない。

本調査報告書は、最近めざましい米国造船業におけるM&Aや事業提携の状況を実例を踏まえ詳細に調査することにより、今後わが国造船業において行われるであろう具体的な集約化の進め方についての検討に際し、造船関係者の参考に資することを目的にとりまとめたものである。関係各位にご活用いただければ幸いである。

 

ジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部

Director 森雅人

Assistant Researcher 氏家純子

 

 

 

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