父は学生時代に剣道をかじっていたようでしたが、剣道の話は聞いたことがありませんでした。「きっと」、僕が小さかったからだと思います。
僕は、あの試合のすばらしさに感激して、「早く剣道をやりたい」、と両親に頼みました。
すると、父は、「剣道を習う以上は、どんなにしんどくてもへこたれてはあかんぞ」、と言って賛成してくれて、すぐに入部することが出来ました。
剣道は放出小学校の体育館ですので、自宅から歩いて五分ぐらいの近いところで、他の部員より恵まれていました。
剣道の稽古は毎日基本ばかりで、先生からは、「算数でも基本が出来なければ、問題は解けない、剣道も同じだ」、としかられ通しで、僕の考えていた剣道具を着けての剣道とは程遠く、先生の顔が鬼のように見えて、緊張の連続でした。
それでも、基本だけはしっかり出来るようになっていました。
剣道具を着けてからの稽古も、ほとんど上級生が相手なので、腕に「みみずばれ」が出来て腫れ上っていたことも度々でしたが、嫌だと思ったことは一度もありませんでした。
稽古の時間が来ると、父は必ず体育館に来て、窓から覗いて剣道の様子を見ていて、剣道が終って家に帰るとすぐに、「勇司、お前の剣道は気合が入っていないぞ、剣道はそんな甘いもんとちがう」、と怒鳴ります。
「普段は優しい父なのに」、剣道のことになるときつく当るような気がして涙がでてきます。「獅子は、我が子を一人前にするために、千尋の谷底へ突き落とす」、と谷口先生から聞きました。
あの厳しい父の顔はきっと獅子になっていると思います。
それ以来負けずぎらいな僕は、毎朝素振りをしてから学校へ行き、稽古の時は息切れがするまで先生に掛かって行きます。
その甲斐あって沢山の試合に出させていただき、六年生の夏には、全日本少年剣道錬成大会に出場し憧れの日本武道館で錬成することが出来ました。
先生は日頃から、「剣道は立派な人間になる道だ」、と言われます。僕も全くその言葉通りだと思えてきました。
心を鍛えて礼儀正しい人間になることが何よりも大切だと思います。
また、城東剣道クラブの行っている、町の清掃も、ごみを一つでも拾う事によって、小さな事ですが人間形成の一端になるのではないでしょうか。
大勢の中には、常識では考えられない非常識な人も沢山います。これらの人は自分さえよければいい、人はどうなってもよいと、考えている人達ではないかと思われます。
僕は最近、不愉快に思っている事があります、それは、一般の人たちから、よく「今の中学生は悪い」、と言われることです。
悪いと言ってもほんの一部の生徒に過ぎませんのに、おおかたの善良な生徒が迷惑を被っていることは確かです。だから僕は、こんな人たちをみかえしてやるために頑張りたいと思っています。
「鉄は熱いうちに鍛えなければいけない」と聞いています。今のうちに心を鍛えなければ冷えてしまいます。
その心を直すには剣道が一番良いと思います。
僕は中学生になった今、剣道を習って良かったとつくづく思うようになりました。
あの、父の「励ましの言葉」が身にしみて大きなプラスとなって現れ、六年生の十二月に行われた部内大会に優勝することが出来ました。
この喜びを忘れずにいつまでも剣道を続けて行き、「文武両道」の精神を持ち社会に役立つ人間になりたいと思っています。