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船長は、同じく海図に当たっている。水先人によると、ヴィンヤード海峡を出航中の予測潮高は、おおよそ(+)1.5フィートであった。船長、水先人は、共に、(+)1.5フィートの潮であれば深度39フィートの地点を通過するのに、何ら問題はなかったと証言している。この海峡でQE2を嚮導するには、最小水深40フィートであると、水先人は述べている。

21時58分にQE2では、船内どこででも感じる程の激しい振動を受けた。船橋に居た者は、二回に及ぶ振動と轟音があったと想起している。船長は、船橋内の装備品が大時化のときと同じ様な騒音と動揺を醸し出したと記憶している。二度目の振動が治まったとき、船長は関停止を指示した。一等航海士が機関のコントロール・レバーを中立としたので、船体の前進行きあしは、急激に減少した。船長は、二回の振動が生じた原因について、まず頭に閃いたことは他の船舶との衝突で、次いで機関の故障であった。その次に唯一残った原因として乗揚が思い浮かんだ。水先人は、まず、プロペラー脱落のような機関損傷が発生したのではないかと疑った。船長は、機関室を呼出し、機関長と話し合ったところ、機関長は機関には何らの問題も生じていないと船長に断言した。船長は、その後も周囲を見張っていた一等航海士に、他船と衝突した可能性があるか聞いが、近くに他船は居ませんとの答えであった。それでようやく、船長も水先人も乗り揚げたのに違いないと結論したのである。そして直ぐ、船長は、浸水があるかどうか、全ての二重底タンク(注10)を点検するよう、機関士達に命令した。

あの振動を感じると直ぐに、副船長、首席航海士と先任一等航海士は、船橋に集合した。船長は、先任航海士に全区画に損傷や浸水がないか点検するように指示した。数分したところで副船長は、設備を使って二回に亘る振動についての最初の船内放送とその後何回かの船内放送を行った。最初の放送で、副船長は、旅客と乗組員に向かい本船は、浅水水域を通過してそのための影響を受けたと説明した。船体の損傷点検の間に船長と水先人は、どの地点であの激しい振動を受けたのか検討し合っていた。21時58分に航行していた地点付近の水深が海図上で詳しく調べられた。

QE2の行きあし(注11)が徐々になくなってきたのと横流れの影響を受けたため、船首方位を維持させる必要から、船長は、回転制御ハンドルを使って、おおよそ4ノットの速力となる極微速力前進を指令した。船長は、船体損害の確認作業中は、この速力が適当と考えたのであった。水先人は、コースト・ガード当局が投錨するよう指示してくるのが十分予想できるから、ブラウンズ・レッジ礁の南方に留まるようにした方がよいと述べて、この操船方法に同意し、当局の指示に従える地点に留まることを望んだのであった。

間もなく、QE2の損傷対応措置の作業が始まった。機関士一人と航海士一人とが、安全管理室に入った。

 

 

 

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