大気中の二酸化炭素については、洋上の空気をポンプで船首から観測装置に直接導入し、二酸化炭素が赤外線を吸収することを利用して測定します。一方、表面海水中の二酸化炭素については、海水のままでは測定できないため、海水をポンプで船底から観測室に導入し、密閉した容器内でシャワー状に噴射して容器内の空気と海水の二酸化炭素とを平衡させたのち、その空気の二酸化炭素を大気と同様の方法で測定します。
大気中と海水中の二酸化炭素の濃度を比較することにより、観測している海域が、地球温暖化の要因となる大気中の二酸化炭素を吸収している海域か、あるいは放出している海域かがわかり、地球温暖化の実態把握や正確な予測に役立てることができます。
(3) 表層海流計
船底に装備された送受波器から超音波(周波数約七五キロヘルツ)を海水中に発射することにより、任意の深さ(八〇〇メートル程度まで)の流向流速を測定する装置です。
海水中に発射された超音波は、海水中のプランクトンその他微細な浮遊物に反射されて送受波器に戻ってきます。このとき、流れの速さに応じてドップラー効果により反射波の周波数が変化することを利用して流向流速を測定します。
(4) 電気伝導度水温水深計(CTD)と多筒採水器
CTDは、観測点で停船した船上から信号線内蔵のケーブルに吊り下げられて海中を降下しながら水温と塩分(電気伝導度)の鉛直分布を測定する装置です。
曳航式CTDが海洋表層の効率的な観測を行うのに対し、CTDは、表層から海底近くまでの詳細な観測や多筒採水器と組み合わせた観測を行うのが特徴です。
多筒採水器は、CTDの外周を取り巻くように容量五リットルの採水ボトルを二四本装着しており、船上からの指令により任意の深さの海水を採取することができます。採水した海水は、リン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩等の栄養塩濃度については船上で自動化学分析装置により迅速に分析するほか、アルカリ度、溶存酸素、重金属等を測定しています。
(5) 舶用波浪計
船首に取り付けられたマイクロ波センサーで海面の鉛直変位を測定し、船体の動揺から生じる変位を加速度センサーで補正して波高を測定するものであり、航走中に観測することができます。
(6) 総合海上気象観測装置
船上で風向風速、気温、露点温度、気圧、雨量、日射等の観測を総合的に行い、その結果の通報を行う装置です。
おわりに
近年世界各地で発生している異常気象とエルニーニョ現象など海洋の変動との関わりが次第に解明されつつあります。海洋は、地球表面の七割を占め、大気とのエネルギーや物質の交換を通じて気候に大きな影響を及ぼすことがわかっています。異常気象や気候変動、地球温暖化その他地球環境問題に適切に対応することは世界的な急務です。また、海洋は、海運、水産、海洋開発など諸活動の場となっており、諸活動の安全性、効率性の確保は極めて重要な課題です。これらのことから、海洋の変動や気候への影響の実態把握、機構解明がますます重要となっています。
海洋気象観測船は、このような海洋について、前述の各種観測装置と観測員により、機動的に、海面から海底近くまでを直接観測あるいは試料採取する数少ない貴重な手段であり、気候変動や地球環境の実態把握と機構解明に大きな役割を果たしています。
注:CTDとは、電気伝導度水温水深計(Conductivity, Temperature and Depth profiler)を指し、電気伝導度(塩分)・水温・水深を測定するものです。