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時間がかかる、船酔いをする、海が荒れたり霧が濃くなった時の欠航が多い、港までのアクセスが不便である、便数が少なく利便性に乏しい、などなど数え上げればきりがない。これらの要因のひとつひとつを、安全性を十分に確保したうえで、解決していかねば、新しい需要の創造はない。

人工衛星を使ったGPS、電子海図、衝突予防レーダー装置など、現代の電子技術の導入によって船舶の航海機器を含めたハードは急速に発展している。特に欧米に就航する高速カーフェリーのブリッジには最新式の航海機器がコンパクトに収まっている。こうした最新の船舶技術、航海技術を活用すれば、先に述べた船の前に立ちはだかっているいろいろな問題点を、ひとつひとつ解決することは不可能ではないはずである。

以下に、筆者が常々疑問に思っていることをいくつか挙げてみよう。まず、レーダー設備や、GPSや地図と直結した電子海図などの航海機器がこれだけ進んでいるのに、なぜ霧の中での計器航行ができないのか。計器飛行によって、かなりの荒天下においても着陸のできる航空機と比べると、その差は歴然としているといえよう。次は、操縦性も緊急停止性能も優れた高速船が、なぜ港内の高速航行ができないのか。さらに、なぜ装備する航海機器の性能や操縦性能に関係なく二〇〇メートルを超える船舶が巨大船として航行規制を受けるのか。二〇〇メートルを超える大型船でも、操縦性に優れた船舶があるのは今や常識ともいえる。また高速の高性能船に狭い水道での航行速度規制をかけなくてもよいシステムはあり得ないのか。

もちろん、これらは、それぞれの時代における技術的なレベルに基づいて、いずれも必要性があって設けられた安全規制であるが、進展する技術に合わせて変化をしていかなければならない。そのためには、いわゆる規則の機能要件化が必要となってくるのであろう。

 

新しい時代の新しい海上交通システム構築を目指して

こうした新しい海事産業を創造していく上で、造船技術者にかけられる期待も大きい。二一世紀における海事産業進展のためには、これらの規制を撤廃しても十分な安全性が担保できるだけの高い能力をもった斬新な高性能船の技術開発を推進していくことが必要となるのである。

また、行政側の技術者には、それらの最新技術を常に的確に評価して、必要性のない規制の見直しを続けることが求められているように思う。こうした新しい時代を築く姿勢がなければ、海上交通には明るい未来がないように思われるのである。

最初から「安全性上無理」という姿勢で考えては決して解決策は出てこない。「これらの問題点をクリアーする」という強い意志が、あらゆる海事従事者に求められていることは論を待たない。

ベンチャー精神が求められているのはなにもIT産業だけではない。新しい世紀の海上輸送システムを構築するためにも、過去のしがらみに囚われず、斬新な発想を大事にするベンチャー精神が求められているように思う。

 

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HSS1500のインテフレーテッドブリッジ

各種航海計器を活用したトラック・オートパイロット・プレディレクター・システムを持っている

港外で反転し、バックで狭い港内に入り、自動着岸装置によって係留される最新システム

 

 

 

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