日本財団 図書館


その結論は、例えばジェットフォイル等の、四〇ノット以上の高速船にとっては、低速の在来船はほとんど停止状態にあると見なせること、高速船は緊急停止性能に優れており船長の二〜三倍以下の距離での停止が可能であること、などから交通輻輳水域にあっても航行安全性には問題はなく、むしろ問題となるのは、高速船同士の衝突の危険性と、在来船側が近づいてくる高速船に覚える恐怖感、などであることが明らかとなった。

一方、最近急速に数が増している排水量型の高速カーフェリーの場合にはどうであろうか。ほとんどがウォータージェット推進を使っていることから、飛行機の場合と同様に一気に最大後進への切り替えが可能であり、緊急停止距離は船長の数倍と極めて優秀である。また双胴船の場合には、ウォータージェットが左右の船体に離れて設置されているため、操縦性能も俊敏である。すなわち、高速航行時における運航上の危険性についてはそれほどないといってよい。

ただ、厳しい追波中において進路安定性に問題が出る場合があること、強風下における港内などでの低速航行時に、大きな上部構造物に受ける風の力と、浅い水面下船体による横流れによって、操縦がしにくくなるという欠点が指摘されており、これらについては十分な技術的検討が必要とされる。

また、セミSWATH型の双胴カーフェリーが波浪中における船首突っ込みによって大きな損傷を受けた事例、単胴高速船が高速航行中に大きな横揺れを誘起する可能性なども指摘されており、これらについては今後の学術的な検討が必要となろう。

 

大きな環境への影響

高速旅客船が環境に及ぼす影響は結構大きいことが問題になりつつある。

まず、地球温暖化というグローバルな問題と、航路筋での局所的な公害問題に分類ができよう。

大きな水の抵抗に打ち勝って船舶が高速をだすには、大量のエネルギー消費と有害排気ガスの発生が必然的につきまとう。最近デンマークに就航した航海速力五〇ノットの八六メートル級高速双胴カーフェリーは、環境への負荷を下げるためにガスタービン機関の採用に踏み切った。

また、大型の高速船の発生する引き波も局所的問題になっている。高速船の引き波は波長が長く、うねりや津波となる波と同様になかなか減衰しない。この波が海岸線近くに達すると急激に高くなり、漁業の施設、砂浜で遊ぶ人、海岸線の構造物などに影響を及ぼす。特に、船の速度と水深がある関係になった時には、大きな孤立波と呼ばれる波が発生することが、最近の研究で明らかになっている。このため、場合によっては、高速船がかなりの距離での低速運航を余儀なくされる事例も出ている。この引き波問題については、就航前に十分な調査が必要であり、これは単に船舶だけの調査では十分でなく、就航水域の海岸線地形、水深分布等も考慮に入れた詳細な調査が必要とされる。

 

004-1.gif

デンマーク国内航路に就航する「メイ・モルス」3971総トン

旅客450人 車120台 航海速力45ノット

 

新しいマーケット創造に必要な安全技術の見直し

それでは、海事産業に携わる人々は、いかにして二一世紀における新しい需要を育てていけばよいのであろうか。それには、現在の船が置かれている問題点を抽出し、それらを解決するための知恵が求められているのではなかろうか。いくつかの具体例について考えてみたい。

さて、人はどうして次第に船を使わなくなっているのであろうか。それにはいくつもの原因がある。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION